クリル諸島での暮らしが楽だったことは一度も無かった。それでもソ連時代、ここで暮らし、働こうという意識を刺激していたのは給与への高い割増金で、この割増金のおかげで給与額は最低でもほぼ2倍に拡大されていた。クリル諸島の南部、つまりクナシル島、イトゥルプ島、シコタン島、ハボマイ諸島は、住民は大半が漁民ないし国境警備員だったが、彼らはこの割増金に加えて、日本での需要が高い商品を有していた。そうした商品はソ連の他の地域では不足しており、主に委託販売店ないしは知人を通してしか売られておらず、しかも買うには莫大な金が必要だった。
2007年から2015年、クリル諸島社会経済発展プログラムが採択され、まずは170億ルーブル相当が拠出された。サハリン州クリル諸島発展投資プログラム局のセルゲイ・アバブコフ長官がのちに「ロシア新聞」に語ったところでは、この額は不十分であることが判明した。なぜならば諸島の施設の多くはあまりにも老朽化が進んでおり、刷新は不可能で、一から建て直す必要があったからだ。クリル諸島向けの投資は当初の170億ルーブルから一気に280億ルーブルへと拡大された。これで問題の大半は解決され、プログラムの実現結果として数10箇所の巨大発電施設が出来、通信、交通インフラ、給水施設、海洋資源の採取および養殖施設、健康保健施設、様々な産業施設が出来たほか、もちろん住居も完成した。メドヴェージェフ首相をはじめとするロシア人高官、政治家らのクリル諸島訪問もプログラムの実現をかなりの程度促した。
専門家らは、クリル諸島はサハリン州の発展の新たな段階のための拠点となりうると考えている。サハリン州クリル諸島発展投資プログラム局のセルゲイ・アバブコフ長官は「ロシア新聞」からのインタビューに答えた中で、「この地域は外国の投資家の注目を惹いている。彼らはエネルギー産業、観光、建設技術の発展に資金を投じる構えだ。またここに先進発展領域(TOR)の枠内で行なわれる金融活動に対しては特別の条件を設ける構想も検討されていることを明らかにしている。
サハリン州のオレグ・コジェミャコ臨時知事は「コメルサント」紙からのインタビューに対して、ロシア側は「連邦目的別プログラムの枠内で我々の隣人である日本に対し、共同プロジェクトへの参加を積極的に提案」していく構えを表した。だがこの場合、日本が興味を示さなければ、コジェミャコ臨時知事は、ロシアは韓国など別の諸国をクリル諸島のポテンシャル使用の相手国として検討して行くと語っている。
だがさらにもうひとつ重要な目的に数えられているのはクリル諸島に先進社会経済発展領域を作ることだ。このなかでロシア政府の決定に基づき、企業活動などを実現する上での特別の法制度 が確立できる。その目的は、投資をよびこみ、経済発展の急速化をキープし、住民の生活活動を約束する快適な条件を作るために好条件が形作られることにある。これはつまり、クリル諸島は住民にとっても、外国をはじめとする企業家らにとっても天国となる可能性のすべてを有していることを意味する。