ダーチャはロシアの都市住民にとって欠かせない、郊外のセカンドハウスのことだ。国民の6割、大都市圏では半数の住民がダーチャを持ち、ダーチャ所有者の8割以上が、そこで家族のための野菜や果物を栽培している。夏場、金曜の夕方、モスクワから郊外に向かう道路はダーチャに向かう車で大渋滞になる。セカンドハウスというと豪奢な別荘をイメージするが、実際は掘っ立て小屋・山小屋に近いものも多く、菜園はもちろん、トイレやシャワーなど設備の多くが住人の手作りだ。
ダーチャの多くにはりんごの木があり、9月のモスクワはダーチャで収穫したりんごを売る人でいっぱいになる。沼田市もやはり、りんご栽培は盛んで、市内に多数ある高品質なりんご狩り園が人気を集めている。ロシア人はダーチャ付近の山できのこ狩りを楽しむ人が多いが、沼田市も舞茸や椎茸(群馬県は椎茸収穫全国4位)の栽培が盛んだ。松茸が採れる山もある。また、ダーチャに欠かせないのは、ロシア式サウナ「バーニャ」だ。ロシア人にとってバーニャは農作業の疲れを癒す、憩いとコミュニケーションの場である。それに対抗(?)し沼田市にはガソリンスタンドならぬ「温泉スタンド」がある。南郷温泉の源泉かけ流しのお湯が、家のお風呂一杯分(約200リットル)100円で買える。沼田市内では温泉をポリタンクに入れて軽トラックで運ぶ人の姿が頻繁に見られる。かなり熱めのお湯なので、自宅に持ち帰り湯船に移し変えて、少し待つ位がちょうど良い。地元の人は「温泉スタンドは見慣れた光景なので、特に何とも思いませんが、都会から来た方はびっくりされますね」と話す。自宅に温泉につかれば温泉施設に通うよりも経済的で、高齢者も移動を気にせずゆっくりと楽しめる。
小島氏「セミナー参加者は、ロシアのダーチャの写真を見て、うっとりすると言うか、『こんな暮らしがしたいな』と憧れをもって見ていらっしゃいました。豊田講師からは、ダーチャはものづくりを行う場所で、ロシア人は人生に必要なことをダーチャから学ぶというお話がありました。参加者からは、食育・子育てを考えたときに、田舎に生活拠点をもつのはやはり良いものだという感想を頂きました。」
国土交通省も来年度、地域活性化の観点から、二地域居住に特に力を入れていく。沼田ダーチャ計画の始動は、日本人がロシア風の生活の豊かさ、心の豊かさに気付くきっかけになるだろう。