オーストラリアの国防相が入札を発表したのは、2011年12月の事だった。これにはフランスの他に、ドイツと日本も参加しており、日本が最も可能性が高いと見られていた。2014年4月、オーストラリアのジョンソン国防相は「日本の潜水艦『そうりゅう』は、最も完全に我が軍の要求に応えている」と述べた。同年7月、日豪は、軍事技術協力拡大に関する合意に調印したが、この合意は、軍事技術の交換も規定するものだった。当然念頭には、まず潜水艦の共同開発があったと言ってよい。
日本にとって、契約できなかったことは、極めて重い打撃となった。日本政府は、潜水艦の国際市場にデビューするチャンスを逃した。国防分野での巨大契約を失った今回の出来事は、安倍政権が兵器輸出の禁止を解除した直後に起きた。米政府は、この問題解決において日本に有利になるようオーストラリア政府に圧力をかけていた。米国は、アジア太平洋地域の安全保障において、日豪を、増大する中国の力とバランスをとるための然るべき味方にする事を目指している。日米豪三カ国はすべて、島の領有権をめぐり係争中のスプラトリー諸島海域に、中国が7つの人工島を作った事に、極めて大きな不安を感じている。この海域には、インド洋と太平洋をつなぐ重要な海の道が通っている。
契約が上手く行かなかったことを受けて、中西防衛相は、極めて残念だとした上で、オーストラリアに説明を求めた。彼らが日本の潜水艦を選ばなかったのは、もし日本にとって有利な選択をする事になれば、かなりリスクがあると考えたからだろう。なぜなら日本には、国外での海軍技術製造において、事実上、経験がないからだ。しかしフランスの会社にとっても、外国のパートナーに自分のノウハウを譲渡するのは初めての経験だ。オーストラリアのターンブル首相の言葉によれば「多くの様々なバリエーションが検討されたが、フランスのDCNSが示した条件が、最も国の安全保障の利益に適っている」とのことである。こうした決定は米国の不満を呼ぶのではないかとの質問に対し、ターンブル首相は「国防部門での発注におけるパートナー選びは、国が主権を持って決める事だ」と答えた。
オーストラリアの専門家らは、日本の潜水艦は、耐久性と移動距離に関し、しかるべき要求に適っていないかのように指摘している。おまけに彼らは、フランスとドイツは、オーストラリアの造船所での潜水艦建造を見越していたが、日本は、これを保証していなかったとも述べている。しかし一連の分析専門家らは、オーストラリア政府がそうした判断を下した中に、技術的な要因ばかりでなく、政治的なものがあると見ている
オーストラリアは、明らかに、中国との関係を悪化させたくないのだ。もしオーストラリアが自国の海軍力を日本と共同で発展させ始めたなら、中国政府が、それに不満を持つ事は明白である。今年2月、オーストラリアのビショップ外相が北京を訪問した折、中国の王 毅外相は、軍事領域で日豪が接近する事に警戒感を示し「我々は、日本と軍事協力する際には、オーストラリアが、歴史的なコンテキストに注意を向け、そうした歴史に関わったアジア諸国の感情を考慮するよう希望する」と述べている。
この論説の最後に指摘したいが、アジア太平洋諸国の国々の大部分は、自国の海軍力、特に潜水艦部門を拡大している。そのテンポは、この水域に生息するクジラの数を上回る可能性があるほどだ。そしてこの水中軍拡競争のトップを走っているのは、他ならぬ中国なのである。