「我々はモスクワ市との間にいくつかのルートを見込んだ合意を結んだ。これらのルートは技術を実現化するために最優先的なものだ。技術のテストは今年の12月にも行われると思う。
だがモスクワというのはあくまでもアイデアの1つにすぎない。最大の構想は運輸の結節点へとつなげるもので、これは「北と南」の間の回廊だ。これは北西からロシアの南へと向かうルートになる。ロシア、イラン、パキスタン、インドの領域を通り抜ける。
もうひとつの大きなルートは中国と欧州をむすぶもので、カザフスタンとロシアを抜けていく。この2つのプロジェクトは我々にとって最もアクチュアル度、優先度の高いものだ。」
現在、「スーマ」グループが学術研究所とともに分析をおこなっているのは、ロシアの沿海地方と国境を接する中国の琿春(こんしゅん )にある税関ロジスティックスセンターからロシア極東のサルビノ港までの70キロをハイパーループ技術を用いてつないだ場合の技術、経済上の合目的性だ。
これは中国の「新シルクロード」プロジェクトの枠内で新たな技術を用いて行おうとしている。「新シルクロード」プロジェクトとは欧州までの貿易ルートをロシア、中央アジアを通過することで多様化を図るものだ。つい先日、このプロジェクトの協議に中国側からも参加があった。露中委員会の共同委員長を務める交通省のマクシーム・ソコロフ大臣によれば、このプロジェクトへの財政が承認されれば、露中合弁のベンチャー企業もこれに参加する可能性がある。
ハイパーループの初の実験が行なわれたのは今年5月、米ネバダ州の砂漠。実験後、今度は乗客が安全かつ快適に移動するにはどうしたらいいか、それが一番の課題になっている。これについては専門家の間でも意見が分かれており、ハイパーループを支持しない者らは技術的な問題に難色を示し、構造上の過重に耐えられるか、外的ファクターへの影響はどうか、内部の減圧や安全問題をつついている。
モスクワ金融法律アカデミー、社会経済研究所のアレクサンドル・ブズガリン所長は、純粋に技術的に解決されていない問題のほかにも、異なる性質の問題が存在するとして、次のように語っている。
「今、これにはセンセーショナル的な意味合いが存在している。10年、15年のスパンでものを考える中国にとってはこのプロジェクトは新技術を試す場だ。ところが新シルクロード・プロジェクトは中国にとっては文化、社会、経済上のプロジェクトであり、単にインフラに留まるものではない。ハイパーループプロジェクトは数年間かかるが、その利益が出るのは数十年先になることを見込んだものだ。おそらく戦略的な勝利を収めることになるだろうが、それでもかかる費用は莫大だ。中国は長期でロシアと協力を行う構えにあり、このプロジェクトも十分に互恵的なものとなりうる。ただしそのためにはロシア人投資家らがすぐに利益をだすことを考えず、戦略的に、長期的プログラムにのっとって相互の義務を果し合いつつ、領域の総合的発展を入念に考慮してのぞむことが必要だ。これが実れば効果の高いPRキャンペーンにとどまらず、本格的な投資プロジェクトになるだろう。」
果てしない領域空間を持つロシアにとってはアジアから欧州への輸送時間の短縮は計り知れないほど大きな意味を持つ。シベリア鉄道では距離的にも短く、費用も安いがどうしても時間がかかってしまう。北方航路も困難さが拭えない。夏は時間が短縮できるが、冬場は砕氷船を使わねばならず、このためかなり高くついてしまう。ハイパーループ・ワンは貨物輸送開始を2020年に、乗客輸送は2021年にターゲットをおいている。ブリュス・ウプビン副社長は自身のブログで「ロシアは世界で初めて軌道に衛星を投入した国だ。音速トラベルを世界に先駆けて実現することもできるはず」と書き入れている。