国籍付与の考え方は、日本とロシアで全く異なるため、ロシア人のパートナーがいる人は、手続きには細心の注意を払わなければいけない。近年「子どもを二重国籍にしたつもりが、日本国籍を失っていた」というトラブルが次々と発覚し、訴訟にまで発展しているのだ。
この問題を紐解くにあたっては、子どもの出生地が大きな鍵となる。
ケース1、日本人とロシア人が結婚していて、ロシアで子どもが生まれた場合
子どもは出生と同時に、日本国籍とロシア国籍の両方を得ることになる。日本の国籍法第2条では「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」に子どもは日本国籍を取得する。これは血統主義という考え方だ。
そしてロシア連邦国籍法第12条1項では「片方の親がロシア国民、もう片方の親が外国国民であって、ロシア連邦内で子が出生したとき」は、子どもは出生と同時にロシア国籍を取得する、と規定されている。ロシアの場合は血統主義に加え、生まれた場所も国籍に関わりを持っており、たとえ両親の一方がロシア人であっても外国で出生した子には自動的に国籍は与えられないのだ。この点が日本と大きく異なる。
蛇足だが、このケースの場合、子どもが生まれてから3か月以内に国籍留保の手続きをしておかないと日本国籍を失ってしまうので、お忘れなく。
ケース2、日本人とロシア人が結婚していて、日本で子どもが生まれた場合
子どもは出生と同時に、日本国籍を得ることになる。それはケース1と同じだ。しかしロシア国籍は、自動的には得られない。ロシア連邦国籍法第14条6項によると、「ロシア国民である親が、外国国民であるもう片方の親の同意を得た場合に、ロシア国民親の申請によって」、子どもはロシア国籍を得ることができるのである。
国籍法第11条の「自己の志望」という部分がひっかかる人もいるかもしれない。生後まもなくの赤ん坊には自己の志望など無い。だが、両親は子どもの法定代理人であるので、ロシア国籍を取得した行為は、自己の志望だとみなされてしまう。
ここで注意したいのが、ロシア人の親と日本人の親の意識の食い違いである。ロシア国籍を後から取得しに行くことについて、特にロシア人親は、深刻に考えていない可能性がある。なぜならロシア連邦国籍法第6条2項によれば、ロシア国籍を持っている人が後から別の国の国籍を取得しても、ロシア国籍は失われないからである。このような感覚を持ち合わせていると、ロシア国籍の取得イコール日本国籍の喪失ということが、ロシア人の頭の中で結びつかず、単に国籍を追加しただけだと誤って認識してしまうのだ。
1と2のケースを総合すれば、日露二重国籍になれるのは、1のケースで「自動的に付与されてしまった」場合だけであることがわかる。2のケースでは基本的に、日本かロシア、片方のみの国籍を選ぶことになる。
日露の国籍問題に詳しい、在ロシア日本国大使館の服部雅一氏は「大使館で婚姻届を出された方には、将来的にお子さんがご両親の意思に反して日本国籍を失うことのないよう、先駆けてご説明しています。国際結婚は互いの国の法律を知る上で良い機会でもあります。色々な手続きを行う前に、相手の国の法律を知り、それを尊重し、ご夫婦で選択して頂ければ」と話している。
自身も国際結婚し、入国管理問題のカリスマである行政書士の古川峰光氏(あさひ東京総合法務事務所)も、相手国の法律を知る重要性を強調する。
古川氏「国籍法はとてもシビアなところがあります。ロシアに限らず、アメリカ国籍取得者でも、気付いたら日本国籍を失っていた、というケースは結構あります。そういう方々が日本国内でその事実に気付くと、不法入国、あるいは不法残留になってしまいます。国籍が無いことを市区町村に届け出た上で、入国管理局で特別在留許可を申請し、それが許可されれば、帰化申請という流れになります。日本人は、国際感覚がある方であっても、あまりこういうことをご存知ではありません。国籍というのはとても大事なものであると同時に、簡単に失くしてしまうおそれもあるので、国際結婚する場合には両国の国籍のことをよく勉強して頂きたいと思います。」
さて、そこまでわかったら、日露ハーフの子どもを二重国籍にする方法についてもう一度考えてみよう。とにかく現時点で確実な方法は、1のケース、ロシアで子どもが生まれた場合だ。カップルの生活拠点がロシアにあり、女性の方がロシア人なら、普通はロシアで出産するので、何の問題もない。生活拠点が日本にある場合でも、女性側がロシア人なら、里帰り出産するという手がある。実際、子どもを二重国籍にするため、夫婦で話し合って里帰り出産を選択した人もいる。
一方、生活拠点が日本にあるとしたら、日本人女性がロシアでわざわざ出産することは、考えにくい。日本人女性と結婚し、東京都に住むロシア人男性はこう話した。「私たちには2人の子どもがいますが、2人とも日本国籍だけ持っています。妻は日本で出産しました。子どもたちにロシア国籍が必要でしょうか?私はそうは思いません。出産にはリスクがつきものです。妻に何かあったときに後悔しても遅いですから。ロシア国籍のためだけに妻にロシアで出産してもらうなど、思いつきもしませんでした。」
日本とロシアの組み合わせは、血統主義と出生地主義が絡み合っているだけに、誤解が生じやすい。事前に国籍法の知識を得た上で、カップルのライフスタイルや生活拠点を考慮し、子どもに与える国籍について考えることができればベストだ。
最後に一点付け加えておくと、日本の国籍法では、出生により二重国籍になった場合には、22歳になるまでにいずれかの国籍を選択し、二重国籍を解消する必要がある。ケース1によって子どもがめでたく日露二重国籍になった場合でも、将来的に国籍を一つに絞る必要があるということを、頭の片隅に留めておいてほしい。
もっと詳しく知りたい方はこちら:今回取材にご協力いただいた、行政書士の古川峰光氏のサイト @visa! ビザ・永住・帰化 古川峰光がビザを読み解く