セルゲイ・ギンズブルグ監督は「この映画プロジェクトは、出来事をドキュメンタリー風に再現するものではないが、ディテールにおいて正確でありたいと努力したし、ゾルゲに関する多くの歴史的研究文書や彼の日記にもとづいている」と指摘した。細かい部分の正確さについて、撮影班は、衣類にも注意するよう努めた。ナチス・ドイツの軍服については、問題はなかった。Star Media社の衣装係に、それが揃っていたからだ。しかし日本の警察の制服は、悩みの種となった。衣装デザイナーは、1930年代末から1940年代初めにかけて、日本の警察官がどんな制服を着ていたかについて、すべて調べなくてはならなかった。また当時の自動車については、個人コレクターから借りて撮影した。
撮影は、モスクワと上海で行われた。特に上海には、戦前そして戦中の東京の街が、撮影のために特別に作られた。映画で主人公のゾルゲを演じているのは、ロシアの人気俳優アレクサンドル・ドモガロフだ。なぜ彼を選んだかについて、ギンズブルグ監督は、年齢が近く外見が似ている事の他に、特に、彼がどんな役も見事にこなす俳優である点を挙げている。役に命を吹き込むため、ドモガロフは、ゾルゲの伝記を研究したばかりでなく、元スパイ達とも会い、ゾルゲについて詳しく話を聞いた。もちろん、彼の私生活についても、ぬかりはなかった。
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— Топ Инстаграма (@t30p_instagram) 20 апреля 2017 г.
ただ撮影にあたり、監督の前に、容易でない課題が立ちはだかった。それは、スクリーン上で、ゾルゲの日本の愛人であった石井花子だと観客の誰もが納得のいくような女優を見つけ出すことだった。その女優は、ゾルゲへの真摯な愛情を、見る者にも伝えられるような力量の持ち主でなければならない。長い審査の末、花子役に選ばれたのは、俳優中丸 新将氏の娘で女優の中丸シオンさんだった。現在彼女は、映画やTV 、舞台で活躍中である。
Star Media社の報道部は、スプートニク日本記者に対し、撮影での印象を次のように伝えている-
中丸シオンさんは、以前から、国際的な大きな映画プロジェクトに参加したいと夢見てきた。彼女のそうした夢をかなえるお手伝いをしたのが、ロシアで活躍する俳優で監督の木下順介氏だ。中丸さんと木下氏は、氏が監督を務めたショートフィルム「Happy Loser マスカケ線」を通じて知り合った。映画「ゾルゲ」の中で木下氏は、この作品のために考え出された架空の人物で、「タカギ」というボディガード役を演じている。昨年2016年のモスクワ国際映画祭で、スプートニク記者は木下氏にインタビューをしているので、ユーザーの中には彼の名前を覚えている方もおられるだろう。
映画「ゾルゲ」には、オオサキ役で山本修夢氏も出演している。この役柄も架空のもので、ゾルゲの真の姿を暴こうと、ひそかに付け回す人物である。
ソ連の諜報員であったゾルゲは、ドイツのジャーナリストとして日本に入り、その後、ドイツ大使館の報道担当官として働くようになったが、この仕事は、彼が秘密情報を手に入れ、軍や政界の大物に近づく助けとなった。そうして彼は、ヒトラーによるソ連侵攻計画をいち早く知る人間の一人となり、その情報をラムザイという名前でモスクワに送った。しかし彼の報告は無視された。ゾルゲは、地下活動のあらゆるルールに違反し、命を危険にさらしながら、モスクワに次々と打電するが、その内容は信用されない… そればかりか、彼のそうした粘り強い努力は、疑いをさえ呼び起こしてしまう…
「私は、日本人に一つ質問がある。それはなぜ、あなた方は彼を敬うのかという事だ。なぜなら彼は、ソ連のスパイだったからだ。日本の人達は異口同音に『ゾルゲは英雄だった。なぜなら彼は、日本とソ連の戦争勃発を許さなかったからだ』と答えている。」
5月の半ば、モスクワで最後の撮影が行われ、その後、さらにひと月、モンタージュや音響関連の仕事が続く。おそらくロシアのチャンネル1で放映されるのは、番組改編がある秋の新しいTVシーズンが始まってからだろう。