スプートニク日本
歴史の専門家達は、カリブ危機(キューバ・ミサイル危機)の時ほど、世界がグローバルな核戦争に近づいた時は、これまで一度もなかったと考えている。あれから約55年が過ぎ去り、世界は新たに、不安を持って今回の朝鮮半島情勢の深刻な尖鋭化を見守っている。原因は、キューバの時と同じく、ミサイルだ。朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮の指導者金正恩委員長は、幾度となく「共和国は、米国の標的を攻撃するため核攻撃力を拡大するだろう」と述べてきた。しかし3月6日に北朝鮮で打ち上げられた弾道ミサイルの一つなどは、日本・北陸地方の能登半島にも達しない、たった200キロを飛行しただけだった。
アジアで今後、あのキューバの時のような「ミサイル危機」は起こるだろうか? スプートニク日本記者は、この問いを、ロシアの軍事問題専門家ウラジーミル・エフセーエフ氏にぶつけてみた。
よく知られているように、キューバ危機は、平和のもろさを自覚させることで、その後逆説的な形で国際的な平和安定の事業を助けることとなった。米ソ両政府は、軍備管理に向けた数々の措置に着手し、相互の信頼が強化された。では当時、何が一体それを破壊してしまったのか、今思い出す価値があるのではないか?
そして「ロケット開発の遅れ」というテーマの悪影響は、ケネディ大統領時代に一層深まり、まさに彼の時代にカリブ危機が起き、続いて宇宙での軍拡競争が始まった。米国は、体系的に自分達の軍備を、彼らが自らの同盟国防衛にとって戦略的に重要だと思うあらゆる場所に配備して行った。おそらくそうした理由から、当時のソ連の指導者ニキータ・フルシチョフ書記長は、彼独特の表現を引用するなら「アメリカ人のパンツにハリネズミを入れる」のは悪くないと考え、核ミサイルをアメリカの喉元に移動させたのだろう。
さてこの21世紀に、金正恩委員長は「自分のハリネズミ」をどこかに入れることはできるのだろうか? 実際の北朝鮮の脅威は、果たして日本で言われているようなものなのだろうか?
ロシアを代表する日本専門家の一人、ワレーリイ・キスタノフ氏は、次のように述べている-「日本における北朝鮮の脅威は、明らかに煽られ、可能な限り破滅的なシナリオで描かれている。北朝鮮の体制が、最初に攻撃してくるというシナリオなど、いかなる論理性もないにもかかわらずだ。彼らにとって、そんなことは単に自殺行為である。しかしトランプ現大統領は実際、予測のつかない人物だ。この事は、アフガンやシリアに対する空爆を見ても理解できる。アフガニスタンで米国は、示威的にMOAB(大規模爆風爆弾)を使用した。確かに朝鮮半島をめぐるトランプ氏の行動について、何かを予測するのは難しい。誰も戦争を望んでいないが、すべてが戦争に向け用意がなされているとの感じがある。第一次、第二次世界大戦が始まったのも、まさに何らかの挑発によるものだった。満州鉄道での挑発事件後起きた日中戦争も、その例に加えられる。今日、グローバル、国際レベルのこの地域における線引きは、もう米国と中国の間で行われている。米国は、金正恩体制を終わらせ、そこに親米政権を立てることに異存はない。目的は、朝鮮半島全体を平穏に管理し、南ばかりでなく中国と国境を接する北にも、障害なく米国の戦略兵器を配備する事だ、そして朝鮮半島を、中国に圧力を加えるための橋頭堡として利用する事である。」
スプートニク日本記者は、朝鮮問題の専門家であるゲオルギイ・トロラヤ氏にも意見を聞いた。氏は「現在、超大国が衝突するような直接的な脅威は存在していない」と指摘し、次のように続けた-
さて日本の状況だが、対外的な危機と金正恩という敵に直面した日本人の恐怖感がプラスとなって、安倍首相の支持率が上がっている。国民の間の危機感を高める事は、安倍政権にどのくらいプラスなのだろうか?最後にスプートニク日本記者は、再びキスタノフ氏に聞いてみた。
氏は、次のように答えている-「安倍首相は、日本の軍事力増強を根拠づけるために、この脅威を単に利用しているように思える。彼は、米国が戦後日本に押し付けた平和憲法を葬り去りたいと考えている。しかし核兵器が用いられない軍事紛争が起きた場合でも、それは日本に非常に否定的な影響を与える。何万、あるいは恐らく何十万もの難民が生まれ、まず韓国に、そして中国やロシアにやって来るだろう。そして彼らは、日本にも向かう。彼らが日本にたどり着くことは、そう難しくはない。例えば、対馬列島だ。おまけに日本は、そうしたバリエーションを予め念頭においている。北朝鮮の体制崩壊のシナリオの一つとして、難民受け入れに向け用意する必要があると言われている。なぜなら、アフリカと欧州の間で現在起こっているのと同様の何かが、難民流入により生じるからだ。日本国内に、難民を装って、様々な後方攪乱作戦を行ったり原子力発電所爆破を企てるテロリストが入り込む恐れもある。」
以上のことを考え合わせた場合、6カ国協議から北朝鮮を追い出すのではなく、協議を再開させることは、今のところまだ遅くないように思われるのが、皆さんはどうお考えだろうか? よく言われるように「よい戦争より、冷たい平和の方がまだまし」だ。 我々には常に、選択の道が存在している。