依然残る「つまずきの石」
ロシアは、自らにとって、そして米国との軍事的均衡を維持している自らの戦略核戦力にとって、欧州と極東に配備されている米国の弾道ミサイル迎撃システムを重要な脅威と捉えている。この問題に関する米国との交渉は行われていないが、このテーマは常にロシア政府の関心の対象になっている。外国の複数の専門家が指摘するように、極東で主要な問題であり続けてきたのは、オホーツク海域に拠点を置き哨戒活動を行っている弾道ミサイル潜水艦の防衛である。移動可能な海上のイージス艦に搭載されるものも含め、近代的な弾道ミサイル迎撃システムが米国により導入されるのに従い、この問題はさらに緊急かつ複雑なものになった。ロシアが非常に懸念しているのは、そのようなシステムの一貫した近代化なのだ。
この安全保障上の要請に対処するためにロシアが採りうる手段は新たな軍備と、千島列島のマトゥア島(日本名松輪島)に建設が計画されているような新たな防衛拠点だけである。まして自らの戦略核戦力に新たな弱点を付け加えることなどロシアの大統領には原則として不可能だ。一方南クリル諸島の日本への引き渡しは、プーチン大統領が既に一度ならず公に述べているように、日米安保条約に基づき米軍基地が南クリル諸島に建設される事態につながる可能性がある。このことは極東沿岸と戦略ミサイル潜水艦の防衛態勢を弱体化させるだけだ。
また、南クリル諸島を引き渡す際、島の非軍事化を日本側が保証することもできないのは明白である。つい最近尖閣諸島への安保条約の適用を確認されたことを考えれば、日本が米国とそのような協議を行うことは奇妙である。
あとはプーチン大統領も述べているように、主権の移譲を伴わない島の引き渡しという案が残っている。これにより、安保条約に関係する問題は解決できる。「先行発展領域(TOR)」と呼ばれる経済特区をクリル諸島に創設するというロシア側の政策こそが、ロシアが日本との共同経済活動を自国の法体系にのみ基づいて行う意思があることを示している。別の言い方をすれば、主権の放棄は行わないということを示しているのだ。問題は最早、歴史的正当性ではなく安全保障なのだ。
実際には、これは実現しそうにないと考えられる。というのは安倍氏の外交活動を見れば、米国が日本にとって従来通り最も重要な同盟国であることが分かるからだ。そして露米関係は過去50年間で最悪の状態にある。プーチン・トランプ両大統領の初めての会談は成功したが、露米関係はこれまで常に、両国指導者の互いに対する好感よりもはるかに多岐にわたるものであり続けてきた。露米関係の早期の緊張緩和は見込めない。
このような状況では、ウラジオストクでロシアと日本の指導者は何のために会談するのか、という疑問が生じる。プーチン氏は自らの立場を既に示している。
安倍氏にとって駆け引きの可能性は限られている。もちろん、もう一度経済協力を議論することはできるが、その限界は両当事者によく知られていることだ。今のままでは、ロシアと日本の間の平和条約というテーマが過去70年もの長きにわたって陥っている、袋小路の状態が延長されるだけであろう。