北極圏におけるロシアと日本の共同研究はつい昨日に始まったのではなく、すでに40年を超える歴史がある。1970年代初めに北海道大学の専門家らが、森林火災による永久凍土の融解をテーマとしてヤクーツクの凍土学研究所とともに研究活動を開始した。だが日本とロシアの間で北極圏研究における協力が活発に行われるようになったのは、1997年に世界気候研究計画(WCRP)の枠組みで共同活動を行ってからである。
日本の研究者はロシアの北極圏地域の何に最も関心を持っているのだろうか。1つ目は地球全体の気候の変化を長期的に予測する根拠となり得る海氷の融解をはじめとした気候変動の研究である。2つ目はこの地域の天然資源の可能性の研究、エネルギー関連プロジェクト、海上輸送、そしてもちろん、環境問題である。これらの分野の研究を日本側と共同で行っているロシア側の機関の一つが、1920年にサンクトペテルブルクで設立された北極・南極研究所(AARI)である。その実験気候学研究室のワシリー・クストフ室長は「スプートニク」とのインタビューでこう語った。
「最近我々は日本の国立極地研究所とセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島のボリシェヴィク島にある「ケープ・バラノバ」基地での共同研究に関する覚書を締結した。大気の地表層中のブラックカーボン濃度の変化を共同で研究する。研究の目的は、北極圏における大気汚染の評価と、大気の移動を分析してその汚染がどこからやってくるのか、つまりその汚染が人間の活動によるものなのか、それとも自然現象の結果なのかを調査することだ。このことは北極圏やロシアにとってのみ重要なのではなく、世界全体の問題だ。日本側は、北極海の海氷が融解し確実に後退しつつあるという問題にも関心をもっている」。
北海道大学の杉本敦子教授は北東連邦大学で以前から研究活動を行い、「RJE3(極東・北極圏の持続可能な環境・文化・開発を牽引する専門家集団を育成する取組み)」プログラムの参加者の一人である。杉本氏はBESTの調査隊に参加し、「スパスカヤパッド」観測拠点で研究を行った経験がある。
「スパスカヤパッド」とは、ロシア科学アカデミー・シベリア支部北方圏生物問題研究所(IBPC)の野外研究室である。1991年からここでは、永久凍土地帯の生態系のモニタリングと研究を目的とした10件を超える露日共同プロジェクトが実現している。そのうちの一つについて、IBPC生物地球化学研究室のトロフィム・マキシモフ室長は「スプートニク」に以下のように語った。「日本との協力はすでに25年間にわたって続いている。『スパスカヤパッド』はちょうど65年前に開設され、そこには大量のデータが保管されている。50件の国際プロジェクトの枠組みの中で、気候変動に関係する研究のほか、永久凍土環境のもとでの植物相、動物相、そして人々の生活についての研究も行われている。『スパスカヤパッド』には水や熱、二酸化炭素の流れを様々な高さで測定できる近代的な設備を備えた高さ30メートルのフラックス観測タワーがいくつか設置されている。これらのデータは炭酸ガス濃度の評価や、温室効果ガスの蓄積に対して、生態系や人間の活動が具体的にどのような形でその要因となっているのかを比較するために不可欠なものだ。『スパスカヤパッド』で得られたデータは横浜市にある地球情報基盤センター(CEIST)のスーパーコンピューターで解析され、北極圏だけでなく、世界のほかの地域も含めた気候変動の長期的予測に役立っている」。
今日、北極圏における露日共同の科学研究プロジェクトは、その大半が気候と環境の分野に関するものだ。しかし、将来ロシアと日本が北極海底のメタンハイドレート掘削技術の開発を行う可能性がある。これについては先日、ロシアのセルゲイ・ドンスコイ天然資源・環境相が発言している。ドンスコイ氏によれば、ロシアは従来型天然ガスの埋蔵量が非常に豊富であるが、北極海に豊富に存在するメタンハイドレートの掘削は切実な課題であり、将来に向けてその実現を検討する必要があるという。ドンスコイ氏は、「ロシアではかなり以前からこの分野の研究が進められており、一定の成果も出ている。日本もまたこのテーマに取り組んでいると聞いており、我々は互いの経験の交換と日本の探査船「資源」を使った共同探査の実施に関心をもっている」と述べた。2016年12月には、地質探査と資源利用の分野での協力を定めた覚書が両国の間で締結されている。