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冒頭、ロシア工業団地協会顧問の大橋巌氏が、地域創生・都市再生をテーマに講義を行なった。大橋氏は箱根や浜松などにおける地域振興の成功例を挙げ「成功するプロジェクトの裏には必ず『私』と『公』のパートナーシップがある。はっきりとしたコンセプトをもち、地元住民や企業、役所、鉄道会社などが同じ目的に向かって協力するべきだ」と指摘した。最近のモスクワでは日本のように駅を中心としたまちづくりに注目が集まっているが、駅周辺の再開発はまだまだ発展途上である。
訪日研修生の多くは、「企業経営者養成計画大統領プログラム」を特に優秀な成績で修了した人々だ。このプログラムは市場経済に精通した若手リーダーを養成する目的で始まり、今年で20年目を迎えた。この日は修了証授与式も行なわれ、女性の姿が多く見られた。
セミナーでは、今年日本を訪問したばかりの研修生が自らの体験や感想を発表した。「川越を視察し、商店街と交通インフラの同時発展が欠かせないと気付いた」「都内に地方のアンテナショップがあるのは素晴らしい。モスクワにも我が州のショップを作りたい」「大田区の町工場視察で、工場が住宅街の中にあるのに、それを住民が歓迎しているのに驚いた」などの意見が出された。
ロシアの大手銀行「VTB24」でスタヴロポリ地方の支店を統括しているアルセン・タナニャンさんは、今年9月に「生産におけるカイゼン」をテーマにした訪日研修に参加した。
食事時間も研修の一部だ。天丼チェーン「てんや」店舗では、天丼を作る行程を見学した。
タナニャンさん「それまで本当の和食を知らなかったので、天ぷらには無関心でした。天丼が美味しいだけでなく、オペレーションがスピーディーで、とてもよく考えられていると思いました。広いとは言えない調理場で、オートフライヤーと手作業の工程を見せてもらい、そのどれもが整然として、時間と原材料を無駄にしないものでした。調理場があんなに最適化されていたとは、とにかく驚きました」
ロシアの銀行は日本と比べると圧倒的にバックオフィスの人数が多い。タナニャンさんはスタヴロポリ地方にある12支店・400人以上の行員をまとめている。タナニャンさんには、現場の社員が報告書作成や内部文書のために割く時間が多すぎるという問題意識があった。
タナニャンさん「報告書は日々の売り上げ管理のために毎日作らなくてはいけないものです。しかし天丼作りに見られた『最適化』を参考に報告書にかける時間を減らし、そのぶんお客様対応や商品販売にかける時間を増やすことができました。カイゼンというのは小さいことの積み重ねであり、絶え間ないプロセスです。来年、次のカイゼン事項を導入する予定です」
タナニャンさん「いかにも日本らしくて面白いと思ったのは、ダスキンのモップ貸し出しサービスです。定期的にきれいにしてもらい、長く同じモップを使い続ける。ロシアではこのビジネスは成立しません。ロシア人なら再利用など考えないで、限界まで使うだけ使って捨ててしまうでしょう。ごみをできるだけ出さないビジネスは、日本人のメンタリティがあってこそだと思います」
ほかの参加者からも「日本へ単に観光で行けば、快適さを享受するだけで、その理由にまでは気付けなかっただろう」との声が聞かれた。研修生が得た「気付き」によって、国全体のサービスレベルの向上や無駄の削減につながることを期待したい。