スプートニク日本
太田さんはモスクワ滞在中、ロシアの児童心理学者のオリガ・マホフスカヤ氏との間で活発な議論が繰り広げられ、それにスプートニクの記者も参加した。多くの国と同じく、ロシアでも日本でも、子育てを主に行っているのは母親である。ロシアの男性はこのように言う。「仕事から帰ると子どもはもう寝ている。家を出るときも、まだ寝ている。」結果的に、家族は補償されているが、子どもはお祝いの日にしか父親の顔を見ない。残念ながら、現在この状況は日本のみならず、ロシアでも現実となっている。太田さんによると、父親が働いている時でも、子どもが父親の存在を感じられる方法があるという。
オリガ・マホフスカヤ氏によると、ロシアでは厳しい教育はおむつの時から始まるという。多くの母親は常に子どもを厳しく叱り、子どもが駄々をこねたり、うるさくしたりするとき以外でも、子どもにいろいろと注意します。子どもは常に「ダメ」の壁に囲まれているのです。同時にロシアでは、日本では子どもは5歳になるまでほとんど何をしても叱られないと信じられています。そのとおりなのでしょうか?
太田敏正: 半分正しくて、半分違っています。大昔の日本では、確かにすごく自由にさせていたらしいです。20世紀になってから、日本でも厳しい子育てが流行りました。ですけれども、また最近、21世紀になってから、子どもは自由にさせた方がいいと考える親も増えています。ただし何でもやっていい、わがままを許すという意味ではありません。大人から見れば悪いことでも、子どもはそれを悪いと思っていないことが多いです。そこで、子どもが何かをした時に、いきなり叱るのは良くないと考えられています。
太田敏正: まず、子どもの気持ちを共感的に理解してあげる。その上で、ダメなことはダメと教えてあげればいい。そういうふうに考えて、何でもやらせていいわけではないけれど、悪いこといきなり叱ることは多くはありません。そうすることによって、今、日本人は子どもたちの自発性を大事にしたいと考えています。試しにやってみてほしいのですが、もし子どもが何かよくないことをやっていても叱るのではなくて、ああそういうことをしたいんだねというふうに共感を示してあげる。そうすると、子どもが落ち着くことはよくあります。僕もお父さんになったばかりのころには、悪いことしたら叱ればいいと思っていたのです。友達の家に遊びに行ったときに〔僕の友達の〕お母さんがもっと優しく接してあげた方がいいわよとアドバイスをくれたのです。試してみたら本当にうまくいったのです。それで僕の育て観は大きく変わりました。実際、子どもと同じ目線に立ってコミュニケーションをすると、ちゃんと子どもは分かってくれるんだという安心感、信頼感ができてくると思います。それは子どもにとっても、ものすごく励ましになると思います。
太田敏正: 子どもはどうしても人に迷惑をかける存在なので、いつもお父さんとお母さんは遠慮してしまっています。例えば、子どもが電車の中で騒いだり走ったりすると、親のせいといわれてしまうのです。それがお母さん、お父さんにとってすごくストレスになっている。このストレスを子どもにぶつけすぎてしまう親もいます。だから僕は電車の中でちょっと騒いでも子がいても、ニコニコしています。親をリラックスさせるために。これは日本の社会の問題だと思います。海外で子育てをしている日本人のお母さんは、海外の方が子育てがしやすいとよく言います。周りの人たちがすごく優しいと言います。
ロシアの親の間で最も議論されている問題が子どもへの罰である。言うことを聞かなかったり、悪い行いをしたりした場合は厳しく罰しなければならないと考える親もいれば、それには絶対に反対する親もいる。太田敏正氏の基本姿勢は、子どもに対する厳しさには柔らかさと説得力が必要だというものだ。
ロシア人でも日本人でも親が抱える問題は共通している。それは、子どもにとって本よりもずっと魅力的なものとなってしまうガジェットである。これに対抗する必要はあるのだろうか?
太田敏正: ガジェットについては、いまだに学者さんの中には、子どもには触らせない方がいいと言っている方はいます。ですが、それをすべて排除するというのは、今の状況ではもう現実的ではないかなと思います。人間は危険なものを使いこなすことで進化してきました。ガジェットにも危険が沢山あると思います。例えば、スマホ中毒です。でもそれを小さなころから少しずつ使っていって、危険との距離のとり方を学んでいくことが大事だと思います。自分で自分を律することができるように時間をかけて小さいときから育てた方が僕はいいと思う。10歳を超えてから突然触らせると、もうコントロールが効かなくなるから、小さいときから少しずつ慣らしておいた方がいいんじゃないかと思います。
ロシアでは子どもの愛国教育が重視されている。日本にも同じ様なものはあるのだろうか?スプートニク記者のこの質問に、太田さんは次のように答えた。
太田敏正: そういうことはすごく警戒されていますから、していません。時々そういうことをしようとする動きがあると、それを日本の社会は避けようとします。親を大切にすることをわざわざ親が教えないのと同じように、自分の中から作られるもの、出てくるものであるべきだと考えられています。つまり、親が愛されたいのであれば、自分が愛される親であること、国が愛されたいであれば、愛される国であることが重要だと考えられています。だけど、それをやろうとする人たちはいるのです。その人たちが今、すごく力を持っているのは事実です。だから、僕はすごく警戒しています。