10年前、社会学者らはインターネットやデジタル機器にアクセスできる裕福な家庭の子どもたちが学習の面で優位に立ち、それがデジタル格差の土台を築くことになるのではないかと危惧していた。この格差は確かに起きたが、それは学者らが想定していたものとはまったく違った。
フリード氏によると、内向的でテクノロジー依存の子どもは、低・中所得の家庭に多い。低・中所得世帯には、他の余暇を楽しむためのお金がない。これは子どもの活動に限界を設けるあらゆる制限と同じように、子どもの発達に悪影響を及ぼす。子どもたちは言葉で伝えられる情報を認識するのが難しいためコミュニケーション上の問題が発生し、アクションゲームは制御不可能な感情の暴走を引き起こし、バーチャルリアリティは子どもたちの現実にとってかわる。
ロシア高等経済学院の教授でマーケティングの専門家のイーゴリ・リプシツ氏によると、小さな子どもがスマホやタブレットの画面を長時間見続けるのは明らかに良くないことだが、小中高生や大学生にとっては世界を認識するために必要不可欠なツールとなっている。リプシツ氏は、ガジェットと人間の関係についてスプートニクのインタビューで次のように語っている。
バーチャルリアリティへの熱中には、「デジタル貧乏」という呼び名がすでについている。米ニューヨーク・タイムズのネリー・ボウレス氏は「日常生活に存在するデジタルサービスは、ファストフードのように貧困の象徴になりつつある。貧しい人々の生活にガジェットが浸透するにつれて、裕福な人たちの生活からガジェットは消えていく。贅沢とは人と人との触れ合いであり、これは富裕層だけが手に入れることができる」と自身が書いたセンセーショナルな記事の中で結論づけている。同氏によると、1980年代には、テクノロジーを持つことは富と権力の象徴だったが、今はすべてが変わりつつある。現在、銀行や病院、一部の企業やサポートサービスでは人間のオペレーターが対応する前にロボットやチャットボットが顧客に対応する。また、パーソナルマネージャーに直接つながる電話をかけるためには、追加料金を払う必要がある。銀行、デベロッパーや小売業者など、あらゆる企業がモバイルリモートサービス開発に投資しているが、富裕層顧客に対してはパーソナルな対応をしている。ボウレス氏は「ボットとではなく、人とコミュニケーションを取る機会が、新しい(社会的)階級の証になる」と結論づけている。
リプシツ氏は、富裕層と貧困層の消費者は、オンラインサービスの利用拒否によってではなく、スマートフォンやインターネットから独立することによって区別される可能性が高いと強調する。同氏は「すでに現在、最高峰の大学における最高の教授との対面授業、VRゴーグルではなくビジネスジェットでの旅行、世界の有名劇場のバレエやオペラの生中継を映画館で鑑賞するのではなく実際にメトロポリタン歌劇場のホールで鑑賞することなどができるのは、ごく一部の人だけだ。世界の中流階級が縮小していく中で、人間同士の最良の生きたコミュニケーションや人によるサービスは富裕層が優先的に消費するものとなっていくだろう」と述べている。
「スマートフォンを触らない時間は眠っている間だけという人が増えている。そしてかなりの人が必要な情報を頭で記憶するのではなく、デジタル機器に保存することを習慣としつつある。 彼らはスマートフォンで日記をつけ、連絡先やアイデア、立案のための指示などもメモ機能に書き留める。新世代、あるいはデジタルネイティブと呼ばれる世代はテラバイトの記憶装置である自分の脳を持っているのに、重要な情報の保存に関してデジタル機器やSNSを信頼し、情報のスーパー保存装置である自身の脳をまったく使いたがらない。『デジタル奴隷』が現れるかどうかは預言しないが、その現象は複数の操作の要素においてみられる。彼らにとってデジタル機器は『家庭の助っ人』なのだ。使用者が好む行動や買い物の選択肢をより頻繁に紹介するヤンデックス(ロシアのウェブ検索エンジン)の音声アシスタント『アリス』などが、そのいい例だ。」
研究者らが人間の行動や脳活動にパソコンが与える影響を研究している中、大手IT企業はユーザーの注目や関心を彼らが訪問したサイトでより長く留めておくために、ユーザーの注目を集める技術を導入している。WebサイトやSNSで人々が費やす時間が増えれば増えるほど、広告のヒット数も増え、企業の収益も増えていく。この手法にはすでに「アテンション・エコノミー」と呼ばれている。