【解説】いかにして札幌から2030年冬季五輪が奪われることになったのか 東京五輪汚職事件
© 写真 : Social media page of サッポロテイネサッポロテイネ
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2030年冬季五輪の開催都市は、2023年に行われる国際オリンピック委員会(IOC)の総会で正式に決定する。以前からオリンピック開催に意欲を示している日本の札幌は、他の候補都市であるバンクーバー(カナダ)、ソルトレイクシティ(米国)、バルセロナ(スペイン)の中でも最有力候補とみられていた。札幌は1972年に冬季五輪を開催していたこともあり、つい最近までは理想的な開催都市だと思われていたのだ。しかし、札幌市当局は12月、開催都市を目指す招致活動を一旦停止すると発表した。この背景にあるのは、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の上層部が起こした汚職事件。この事件がどのようにして札幌市からオリンピックを奪うことになったのか、スプートニクの記事をお読みください。
札幌市の秋元克広市長は20日、東京大会2020組織委員会の汚職事件を受け、2030年冬季五輪の招致に関する機運醸成活動を当面の間中止すると明らかにした。
日本最北の大都市
日本最北の大都市で人口約200万人の札幌市は、ウィンタースポーツの中心地だ。札幌の年間平均降雪量は約4メートル79センチであり、これほどの降雪量を記録する大都市は世界でも類を見ない。札幌は冬場は美しい冬景色を楽しめる他、毎年冬には大小の氷像が展示される「さっぽろ雪まつり」が行われることから、人気の観光地となっている。
© AP Photo / Jae C. Hong
雪に覆われた札幌市
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雪に覆われた札幌市
CC BY-SA 3.0 / t-konno / Morning of snow in Sapporo
雪に覆われた札幌市
雪に覆われた札幌市
CC BY-SA 4.0 / Kylely1 / 회사가 끝나고 집으로 돌아가는 사람들 (cropped photo)
雪に覆われた札幌市
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札幌市
スキーは札幌では非常に人気のあるスポーツで、ほとんどの学校ではカリキュラムの一環としてスキー学習が行われ、学校によっては敷地内にスキージャンプ台を設置しているところもある。
また、市内には1972年の冬季五輪のために建設されたスキージャンプ台やスキー場がいくつもある。この五輪で使用された「大倉山ジャンプ競技場」は2013年、夏場でも利用できるジャンプ台が増築された。市内の「宮の森ジャンプ競技場」も1972年の冬季五輪で使用され、この2箇所の競技場では、FIS(国際スキー連盟)ワールドカップや世界選手権が何度も開催されている。
札幌市内の「真駒内公園」は、ウォーキングやジョギングの他に、クロスカントリースキーが楽しめる地域のスポーツセンターとなっている。多目的施設の 「真駒内セキスイハイムアイスアリーナ」では、バスケットボールや空手などのスポーツ教室や大会などが行われている。
宮の森ジャンプ競技場
真駒内公園
大会期間中にスキー競技の会場となった手稲山は、人気のスキー場だ。手稲山の斜面にあるスキー場「サッポロテイネ」は、札幌の中心部から1時間弱で行くことができる。このスキー場はアジア冬季競技大会に2度使用されたほか、地方大会や全国大会の主要な会場になっている。
札幌で毎年2月上旬に開催される「さっぽろ雪まつり」には、世界中から多くの観光客が訪れる。開催期間中、市内にある大通り公園、札幌コミュニティドーム、すすきのでは、数百種類の雪像や氷像が立ち並ぶ展示ポイントに様変わりする。現地では7日間、世界中の才能ある職人による素晴らしい作品が立ち並び、幻想的な街へと変貌する。「さっぽろ雪まつり」は、1972年の札幌冬季五輪以来、世界的に有名なフェスティバルになった。
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札幌で毎年恒例の雪まつり
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札幌で毎年恒例の雪まつり
アジア初の冬季五輪
今から50年前の1972年、札幌で冬季五輪が開催された。この札幌大会は日本のみならず、アジア地域で初の冬季五輪となった。当時、日本最北の大都市には、35カ国から1006人(女子205人、男子801人)のアスリートが集結した。
札幌大会ではスキー、スケート、アイスホッケー、ボブスレー、リュージュ、バイアスロンの6競技35種目が行われた。
© AP Photo【1972年札幌オリンピック】閉会式
【1972年札幌オリンピック】閉会式
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この大会における国・地域別メダル獲得ランキングの1位はソ連。82名の選手からなるソ連代表は、ボブスレーを除くすべての種目に出場し、スキー、バイアスロン、ホッケー、フィギュアスケートで優勝した。
2位は、なんと東ドイツ。東ドイツの冬季五輪出場は札幌大会が2度目だった。3位はスイス。ソ連は札幌大会のメダル獲得数は16個(金8個)、ドイツは14個(金4個)、スイスは10個(金4個)となった。
札幌大会で、日本はスキージャンプ種目で表彰台を独占した。スキージャンプ70メートル級で、笠谷幸生が日本人初の冬季五輪金メダルを獲得した。同じく同種目の2位に金野昭次、3位に青地清二が入った。
© AFP 2023 / Epu/Nyberg
左から藤沢隆選手、銅メダルの青地清二選手、金メダルの笠谷幸生選手、銀メダルの金野昭次選手
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左から藤沢隆選手、銅メダルの青地清二選手、金メダルの笠谷幸生選手、銀メダルの金野昭次選手
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笠谷幸生選手
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笠谷幸生選手
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左から藤沢隆選手、銅メダルの青地清二選手、金メダルの笠谷幸生選手、銀メダルの金野昭次選手
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笠谷幸生選手
札幌冬季五輪の成功は、1998年の長野大会、2018年の平昌大会、2022年の北京大会と、アジア地域におけるその後の冬季五輪への道を切り開くことになった。
東京五輪2020と汚職事件
2020年初頭、新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。このため、同年夏に開催予定だった東京五輪の延期が決定し、翌年の2021年に開催されることになった。そして、大会終了後、東京大会の大会組織委員会で大規模な汚職事件が起きていたことが明らかになった。東京2020大会組織委員会の理事を務めた高橋治之氏は2020年8月、スポンサー企業から多額の賄賂を受け取った疑いで逮捕された。その後、この汚職事件をめぐり、大会の関係者数名が立て続けに逮捕された。
秋元克広札幌市長は20日、東京大会で起きた大規模汚職事件を受け、2030年冬季オリンピックの招致に関する機運醸成活動を当面中止すると発表した。
秋元市長はこの日の会見で、「まずは国民の皆さんの不安や不信感を払拭することが先決」であり、「大会のあり方について、市民・道民・国民の一層の理解が得られるよう、招致活動を見直す」と述べた。
捜査がスタート 明るみになった汚職事件
日本の広告企業「ADKホールディングス」が、五輪前のテスト大会に関連する業務の入札をめぐり、公正取引委員会に独占禁止法に違反したと自己申告していたことが日本のメディアの取材で明らかになった。このため、東京地検特捜部が談合や選考過程に不正が行われた可能性があるとして捜査を開始した。
22日、8月に逮捕された紳士服大手「AOKIホールディングス」の青木拡憲前会長ら元幹部3人の初公判が行われた。青木被告は東京五輪・パラリンピック組織委員会の高橋治之元理事に大会スポンサー契約に関して便宜を図ってもらう目的で総額2800万円の贈賄を渡した贈賄の罪に問われている。NHKによると、東京地裁で行われた初公判で前会長ら3人は起訴内容を認めた。
日本では今夏、東京大会組織委員会の汚職をめぐり大規模な捜査が行われた。高橋元理事は8月以降、大会マスコットの製造・販売、大会関連書籍などの契約をめぐり賄賂を受け取った疑いで複数回逮捕されている。
検察側は、高橋被告が組織委員会の理事を務めていた時期に、複数の企業から賄賂を受け取っていたと主張している。その企業とは出版大手「KADOKAWA」、紳士服大手「AOKIホールディングス」、広告大手「大広」など。「KADOKAWA」はオフィシャル出版サービスサポーターとして大会組織委員会と契約を締結後、東京五輪のプログラム、ガイドブックや関連書籍の出版を行い、「AOKI」はスポンサー契約を結んだ上でエンブレム入りのスーツなどを販売していた。「大広」は組織委のスポンサー募集業務を担う「販売協力代理店」に選ばれるよう働きかけていた疑いがある。
賄賂の一部は高橋元理事自身や知人、高橋の前職である日本最大手の広告代理店大手「電通」の後輩が経営するコンサルティング会社に振り込まれていた。
また、高橋被告は、大会マスコットの製造・販売した「サン・アロー」と広告大手「ADKホールディングス」から賄賂を受け取った疑いが持たれている。両社は高橋被告に総額5400万円の賄賂を渡した可能性がある。
高橋被告は、上記の企業だけで1億9600万円の賄賂を受け取っている。現在の為替レートに換算すると約135万ドルになり、賄賂を受け取った当時では200万ドルに迫る額になっていた。
過去に五輪の開催を取りやめた都市
オリンピック開催を拒否する都市は、今回が初めてではない。札幌は1940年に冬季五輪を、東京は同年夏に夏季五輪開催する予定だったが、中国との軍事衝突の影響により、両都市は開催を取りやめた。東京が開催権を返上したことにより、IOCは大会開催地をフィンランドのヘルシンキに変更し、1940年7月20日から8月4日の予定で夏季五輪を開催することとしたが、第二次世界大戦が勃発し、最終的にこの大会の開催は中止となった。
日本ではこれまで、1972年に札幌、1998年に長野と、2度にわたって冬季五輪が開催されている。