【視点】日本の要人警護 かつても今も変わらぬ問題

© AFP 2023岸田文雄首相の演説会場で取り押さえられた木村隆二容疑者(下)
岸田文雄首相の演説会場で取り押さえられた木村隆二容疑者(下) - Sputnik 日本, 1920, 18.04.2023
サイン
日本で、いわゆる「一匹狼」が国の指導者を狙う事件が続いている。最近では、安倍晋三元首相が殺害された。そしてそれからわずかな期間を経て、また同じような事件が起きた。衆議院補欠選挙の応援演説会場で、岸田首相に対し、新たな襲撃が行われたのである。今回の事件をある種のパターンと見ることができるのか、「スプートニク」が取材した。最近の事実から、一度の出来事は偶然で済ますことができるが、同様のことが二度続けば、傾向とみなすことができるかもしれない。そしてもしそうであれば、まさに現在このような現象が起きている前提条件は何なのだろうか、そしてそれはなぜなのか。

今もはっきりしない動機

中国・近代アジア研究所、日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長は、このような事件が2度起きたからといって、それが傾向であるということはできないと指摘する。
「逮捕された容疑者の証言を聞く必要があります。今回の犯行にはさまざまな理由があるでしょう。しかも、必ずしも社会に対する不満を表すものだったとは言えません。たとえば、単に脅かしてやろうと思っただけかもしれません。というのも、安倍元首相が殺害されたとき、これは政治的な理由によるものだろう、民主主義に対する挑戦かなどと推測されていました。
しかし後に、被害者が安倍元首相を襲った理由はきわめて個人的なもので、家族の崩壊の原因となった統一教会への恨みだったことが分かりました。犯人は最初、統一教会の指導者に自らの恨みをぶつけようとしましたが、うまくいきませんでした。それで安倍元首相は、事実上、たまたま犠牲となってしまったのです。今回、岸田首相を狙った24歳の容疑者はまだ若い青年です。そんな若者が何か深い哲学的な考え、コンセプチュアルあるいはた世界観に関わる動機を持っていたとは思えません」
岸田文雄首相が演説を始める直前に爆発物が投げ込まれる事件 - Sputnik 日本, 1920, 17.04.2023
【まとめ】岸田首相の演説先で爆発 事件の経緯と今分かっていること

名声への欲望か?

一方、キスタノフ氏は、今回の容疑者は、安倍元首相を銃撃した山上徹也被告のように有名になろうと思っただけだった可能性もあると指摘する。
「つまり、山上被告の行動に感銘を受けたのかもしれません。前回の事件については、あらゆるメディアが取り上げました。つまり、安倍元首相を殺害した被告は世界的な名声を手にしたわけです。しかも、日本のメディアの報道のトーンは、被告への同情も感じられるものでした。
つまり、統一教会のために大きな苦労を強いられ、貧しい家庭に育った被告が今回のような犯罪を犯したことは理解できるというような論調もあったのです。今回、岸田首相に攻撃を行った容疑者にも、思いもしないような動機があるかもしれません。抵抗することもなく、身柄を拘束された被告ですが、警察の調べに対しては黙秘を続けています。今の段階では、岸田首相を殺害しようという意図があったかどうかも分かっていません」
一方、国際警護会社CCTTの代表で、国際ボディーガード協会の副長官兼アジア地域統括責任者の小山内秀友氏は、今回の事件について、リアノーボスチ通信からの取材に対し、日本の警察は安倍元首相の銃撃事件の後、多くの教訓を得たと述べている。
実際、今回の岸田首相の事件では、警護はプロフェッショナルな動きをした。
© 写真 : Social media page of g-mix LIFE映像では容疑者が投げたとみられる爆発物のようなものが首相の背後に飛んできて、ボディーガードが首相をかばうようにして避難させる様子がみてとれる。
Телохранитель закрывает премьер-министра Японии Фумио Кисида во время броска взрывоопасного предмета перед его выступлением в Вакаяме, 15 апреля 2023. Скриншот видео - Sputnik 日本
1/2
映像では容疑者が投げたとみられる爆発物のようなものが首相の背後に飛んできて、ボディーガードが首相をかばうようにして避難させる様子がみてとれる。
© 写真 : Social media page of g-mix LIFE映像では容疑者が投げたとみられる爆発物のようなものが首相の背後に飛んできて、ボディーガードが首相をかばうようにして避難させる様子がみてとれる。
Момент падения взрывоопасного предмета около премьер-министра Японии Фумио Кисида перед его выступлением в Вакаяме, 15 апреля 2023. Скриншот видео - Sputnik 日本
2/2
映像では容疑者が投げたとみられる爆発物のようなものが首相の背後に飛んできて、ボディーガードが首相をかばうようにして避難させる様子がみてとれる。
1/2
映像では容疑者が投げたとみられる爆発物のようなものが首相の背後に飛んできて、ボディーガードが首相をかばうようにして避難させる様子がみてとれる。
2/2
映像では容疑者が投げたとみられる爆発物のようなものが首相の背後に飛んできて、ボディーガードが首相をかばうようにして避難させる様子がみてとれる。
しかしそれでも(悲劇的な結果にはならなかったとはいえ)事件そのものを未然に防ぐことはできなかった。ワレリー・キスタノフ氏は、「日本の警察は、今回は安全措置をとったが、またもや大きな失敗を許した」と述べている。
「その原因は明白です。イベントは街頭で行われましたが、事実上、群衆はまったくコントロールされていませんでした。そのことについては日本のメディアも指摘しています。しかし、広島で開かれるG7サミットでは、さすがに厳格な安全策が講じられることになるでしょう」

何世紀にもおよぶ要人殺害の伝統

とはいえ、日本の歴史を見れば、狂信者による要人、政府高官に対する襲撃事件は少なくない。こうした歴史的な事件の中には、日本の政治家以外が狙われたものもあるとキスタノフ氏は指摘する。
「1891年、ロシアの皇帝ニコライ2世は、日本を訪問した際、もう少しで殺害されるところでした。当時はまだ皇太子でしたが、日本の狂信者に頭部を2度切りつけられたものの、なんとか死は免れました。1932年には日本の犬養毅首相が不運にも殺害されました。また1960年には、東京での演説中に、日本社会党党首の浅沼稲次郎が刺殺されています。こうした事実は、日本が安全、警護という意味で優れた国であるとは言えないことを物語っています。つまり、19世紀にも、20世紀にも、21世紀にも、この国では政治家や首相に対するドラマティックな襲撃事件が起こってきたのです」
しかも、浅沼氏が刺殺される瞬間を撮影した「毎日新聞」のカメラマン長尾靖氏の写真は、ピューリッツァー賞を受賞していることも注目に値する。
浅沼稲次郎暗殺事件 - Sputnik 日本, 1920, 08.07.2022
安倍晋三元首相襲撃事件
安倍元首相の銃撃事件 1960年代には2件の政治テロ事件も

厳格に管理されていても殺害に使用される武器

しかしながら、日本で起こっている政治家に対する攻撃事件が、たいていの場合、襲撃を受けた者が死ぬという悲しい結末に終わっていることには驚かされる。キスタノフ氏は、国内では銃などの武器に対する管理は厳しいはずなのにと指摘する。
「日本で銃器所持の許可を得るのは非常に難しいことです。つまり、ピストルや狙撃銃を手に入れるというのはほぼ不可能です。にもかかわらず、安倍元首相の事件のように、ほとんどの事件で犠牲者が死亡しています。しかも使われたのは自家製の単純な銃だったのです」
一方、政治家は選挙演説を終えた後、一般的に、聴衆の中に入っていく。そこには大勢の人がおり、有権者と握手を交わし、直接、投票をお願いする。
ジャパンタイムズ紙は、日本にこうしたスタイルが存続する以上、選挙演説における政治家たちの安全状況が近い将来、大きく変わることはないだろうと指摘している。
関連ニュース
岸田首相の演説先で爆発 容疑者、参院選に立候補できず不満か
岸田首相の演説先で爆発事件 容疑者の家宅捜索が終了 首相は改めて事件を非難
ニュース一覧
0
コメント投稿には、
ログインまたは新規登録が必要です
loader
チャットで返信
Заголовок открываемого материала