【視点】北朝鮮の新原子力潜水艦 同国エンジニアの奇想天外なソリューション

© 写真 : KCNA 第841号「英雄キム・クムオク」
第841号「英雄キム・クムオク」 - Sputnik 日本, 1920, 24.09.2023
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数日前、北朝鮮は潜水艦の進水式を行った。金正恩総書記が自ら式に列席し、演説を行った後、艦内に入り、乗組員らと写真撮影を行った。これは北朝鮮の基準では、潜水艦乗組員にとって非常に大きな栄誉なことだ。潜水艦には「第841号」という戦術番号と、朝鮮戦争の英雄にちなんで「キム・クンオク」という名称が与えられた。
北朝鮮の潜水艦艦隊は長い間、旧式のディーゼル艦艇のみで占められてきた。その構成は、1950年代初頭に建造のプロジェクト613が4隻、1960年代に建造のプロジェクト633/033が23隻、小型潜水艦プロジェクトSang-Oが29隻、超小型潜水艦が20隻以上となっている。プロジェクト613とプロジェクト633/033の戦闘価値は現在、あまりにも条件付きであるため、北朝鮮はプロジェクト633/033艇を様々な種類のミサイルが搭載できるように近代化している。第841号も旧式艦を改造したものだ。

冷却システム付きの潜水艦

西側の専門家たちは、第841号は原子力潜水艦ではなくディーゼル電気潜水艦だと疑っていない。ところが、この主張の論拠は北朝鮮が潜水艦用の原子炉を建造できるわけがないという信念以外は何もない。一方、この評価は間違いだといえる根拠も存在する。
第841号があらゆる角度から撮影されたセレモニーの映像には、船尾部分の両側、ほぼディーゼル・コンパートメントがあった場所に謎の穴が写っている。穴は大きく、少なくとも直径80センチはあり、ブリッジにいた士官の姿と比べることができる。オリジナルの設計にはこのような穴はない。ディーゼル電気潜水艦の排気口は小さく、船尾か甲板上にあり、バルブで閉じられている。
ここにある大きな開口部は、格子以外には何も覆われていないことから、原子炉冷却シャフトの開口部である可能性が高い。このシャフトを通して、海水は原子炉の一次冷却水を冷やす熱交換器を通過し、これらの開口部を通って船外に出る。海水と原子炉の一次冷却水は混ざり合うことはなく、熱伝導は熱交換器の金属を通して行われる。
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第841号「英雄キム・クムオク」

最初の原潜用原子炉VM-Aは1956年にソ連で建造された。この原子炉の容量は70~90メガワットで、最高濃縮度21%のウランを燃料としていた。原子炉設計の原理を熟知している北朝鮮の原子力技術者なら、同様の原子炉は作れる。北朝鮮の原子力産業は兵器級、つま濃縮度90%のウランを生産しているからだ。
西側の専門家たちは、こんな小型潜水艦に原子炉など搭載できないと考えている。実際、ソ連の最初の627型原子力潜水艦の水中排水量は4750トンだったが、プロジェクト633/033潜水艦は1712トンで、ほぼ3分の1しかない。これが第841号に原子炉は搭載できないと専門家が考える根拠だ。
だが、北朝鮮の技術者たちは今までに何度も変わった解決策を思いついてきた。おそらく今回も似たようなことを思いついたものと思われる。プロジェクト627には2基の原子炉、2基のタービン、2本のプロペラシャフトがあった。原子炉室は中央部に2基の原子炉が配置されており、長さ12.4メートル、直径6.8メートル、重さ570トンだった。北朝鮮の設計者は、2つのタービンと2つのプロペラシャフトで働く原子炉を1基だけを使って、十分やりこなせるにちがいない。その場合、原子炉室は長さ6.2メートル、重さ285トンになる。ディーゼルエンジン、ディーゼル燃料用タンク、電気モーター、バッテリー、魚雷発射管の大部分を古い船から取り外し、魚雷の在庫を最小限に減らせば、このような原子炉室は設置できる。
原子炉は通常、船内で垂直に設置される。しかし、北朝鮮の設計者は原子炉を水平に置いた可能性もある。これでは核燃料の再装填や原子炉の制御はしにくいが、もしそうする場合は、原子炉の上に這入路を作れば、乗組員はそこから船尾のコンパートメントに這って入ることができる。
このソリューションはかなりリスキーだ。原子炉が故障すれば、潜水艦は動力を失う。そうなれば、帆を張ってでも基地に戻るしかない。だが反面、非常に有利なところもある。
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「英雄キム・クムオク」は足が速い

原子力潜水艦はディーゼル潜水艦に比べて戦術的に極めて重要な2つの利点がある。第一に原子力潜水艦は乗組員が耐えられる限り、水中にとどまることができる。作戦中、原子力潜水艦は時折、空気補充のためのスノーケルを海面に出す時だけ潜望鏡深度まで浮上する。このため潜水艦のステルス性と脆弱性の低さが保証される。第二に、スピードだ。ディーゼル潜水艦プロジェクト633/033はディーゼル・エンジンを2基を合わせて出力4000馬力(2.98メガワット)、速力は15ノットだった。だが、原子力潜水艦はそれよりはるかに速い。例えばソ連の原子力潜水艦K-222の速度は最高44.7ノットだった。水中排水量1トンあたりの出力密度を計算することができる。K-222の水中排水量は7000トン、原子炉の総出力は354.8メガワットだった。
排水量1トン当たり0.05メガワット。北朝鮮の第841号が90メガワットの原子炉を1基搭載し、水中排水量を約1700トンと仮定すると、これも排水量1トンあたり0.05メガワットとなる。とすると「英雄キム・クンオク」は速く走り、40ノットを自在に出し、最も高速な米国の艦船に追いつくことができる。だが、そこまでスピードを出した場合の水の騒音は、潜水艦乗組員の耳が痛身を覚えるほど大きくなるはずだ。
こうしたスピードとステルス性によって北朝鮮の潜水艦は極めて危険な存在になっている。
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汎用型のミサイル運搬機

西側の専門家の考えでは、第841号は弾道ミサイルを搭載している。だが、写真には直径約1.2メートルの大型格納庫が4基、おそらくは1メートル以下の小型格納庫が6基写っている。したがって、この船は4発の弾道ミサイルと6発の巡航ミサイルを搭載していることになる。弾道ミサイルは射程約2500キロの「北極星3型」(Pukguksong-3)で、巡航ミサイルは射程約1500キロである可能性が高い。
2種類のミサイルを搭載することで、潜水艦の戦闘能力は大幅に拡大する。もしかしたら、第841号には魚雷は一切搭載されておらず、巡航ミサイルで水上艦を攻撃することになっているのかもしれない。だが、北朝鮮は船首を大きな旗で覆い、こちらにそのことがわからないようにしてしまった。
このような潜水艦を造船する目的は、グアム、ハワイ、アラスカ、米西海岸にある最も重要な米軍基地に複合的なミサイル攻撃を仕掛けることにある。この潜水艦は、そうした基地がイージス艦のミサイル防衛駆逐艦にカバーされていない瞬間が現れるまで待機し、至近距離から決定的な攻撃を仕掛けなければならない。運が良ければ、わずか1隻のこうした船で空軍基地、海軍基地、ミサイル防衛レーダーといった太平洋海域の米軍の主要なインフラを破壊できる。核攻撃が成功すれば、起こりうる戦争の流れは変えられる。この状況を生みだせるとすれば、この船の設計に内在するリスクと不便さも十分に正当化されるのだ。
北朝鮮はこのような潜水艦を1隻に限定するほど親切ではないだろう。北朝鮮はプロジェクト633/033潜水艦を他に20隻ほど保有しており、それらを使えば、あと4,5隻は同様の原子力潜水艦を短期間で造船できる。原子力潜水艦の艦隊で北朝鮮は戦略的優位性を得、必要と判断すればすぐにでも戦争に踏み切ることができる。
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