同紙によると、黒海沿岸の港からのウクライナ産穀物の輸出に関するロシアとの協定、いわゆる「穀物合意」は、破綻の危機に瀕している。もし、合意が御破算になれば、ウクライナ産穀物は欧州を通して世界市場に輸出されるか、欧州に直接供給されることになる。この欧州への直接流入を東欧の農業従事者は懸念しているのだ。
チェコの農業従事者もウクライナ産穀物の流入に関する問題を懸念している。農家のウィスラブ・グリンさんは「実際のところ今、売り物にするために何を育てればいいかわからないのです」と吐露する。グリンさんによると、ウクライナ産穀物の供給のせいで、長年提携してきた卸売業者との関係も断たれたという。
チェコ農業会議所のヤン・ドレザル会長は、今後数週間で欧州諸国では収穫の時期を迎えるが、燃料や肥料の価格は高いままで、逆に農産物の市場価格は低い状態が続いていると指摘する。そのうえ、ウクライナ産農産物の在庫はこの半年間で蓄積されているという。
ウクライナ支援は自国への損害
2022年、EUはウクライナからの輸入関税の1年間の撤廃を決定。陸上、河川を利用した交易ルートを開き、大量のウクライナ産農作物が欧州に流れ込むことになった。欧州委員会によると、EUの「連帯ライン」によってウクライナが5700万トンの農産物を欧州に輸出し、ウクライナの生産者や事業者は対価として約250億ユーロ(約3兆6900億円)を受け取った。
さらに、ハンガリーの国家食品連鎖安全局は、ウクライナ産トウモロコシにマイコトキシンに汚染された事例がある他、複数のサンプルで遺伝子組み換え作物の陽性反応が出たと発表している。
5月2日以降、ウクライナ産農産物の被害者となったEU諸国(ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア)は、ウクライナからの小麦、トウモロコシ、菜種、ヒマワリの種の輸入を制限する措置を次々と導入。EUのお墨付きももらい、6月初旬には9月15日までの延長が決まっている。
穀物合意の延長は不透明
トルコ、国連の仲介で昨年7月に成立した穀物合意は、主に2つの協定からなっている。1つはウクライナの黒海沿岸の港から穀物を輸出するもの。もう1つはロシア産食料、肥料への輸出制限の解除に向けた国連との合意となっている。
だが、2つ目のロシアに関わる合意は未だ十分に履行されていない。穀物合意をめぐってはこれまでに、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ロシアは穀物輸出の自由化が実現しないという点で「再びだまされた」と述べ、制限を続ける西側諸国に対し不快感を示している。そして、7月18日までに履行されなければ、合意から離脱する可能性を検討しているとも強調した。
ハンガリーのイシュトヴァン・ナジ農相はこのごろ、黒海を通した輸出ルートを確保するために穀物合意は重要だとの考えを示している。延長できればEU市場内へのこれ以上の過剰供給を阻止し、食糧不足に苦しむ国々への輸出にもつながるからだ。
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