ウクライナ上空の制空権をめぐる闘い

ウクライナへの「F16」供与は逆効果 米軍内からも疑問の声

12日まで行われた北大西洋条約機構(NATO)の首脳サミットでは、ウクライナが供与を求めてきた米製戦闘機「F16」をめぐり、パイロットの訓練が8月から始まると発表された。だが、具体的な供与数や時期は未定で、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領が満足する回答は得られなかった。一方、西側メディアはF16を「奇跡の兵器」の如く崇拝しているが、供与の有効性については現役の米軍将校や軍事専門家からも疑問視する声があがっている。
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ウクライナへのF16供与に疑問を呈したのは、現役の米空軍将校であるマクシミリアン・ブレーマー大佐と米軍事シンクタンク「スティムソンセンター」のケリー・グリエコ上級研究員で、米軍事専門メディア「ディフェンス・ニュース」に連名で記事を寄稿した。そのなかで2人は、米国防総省の公式見解を反映したものではないとしながらも、次のように主張している。

「F16は先進的な多機能戦闘機だが、少ない数では航空優勢は取れないし、ロシアの防衛線を崩すこともできない。加えて、ウクライナの作戦はより複雑になり、これは良い戦略とはいえない。シンプルさは戦争の原則だ。西側式の空戦への転換は困難で、失敗する可能性が高い」

ウクライナ上空の制空権をめぐる闘い
宇でF16戦闘機をメンテナンスする外国人は露軍の正当な標的になる=元米サイバー軍副司令官
2人はまず、ロシアの防空システムについて「からかってはいけない」と指摘。ロシアの対空防衛システム「S400」は、ウクライナが現在運用している米製ミサイル「AGM-88」の約4倍の射程があるため、攻撃できる場所まで丸裸で突っ込む必要がある。ウクライナ側の損失が大きくなるこのような作戦は、すぐに持続不可能となると指摘している。
そのため、ウクライナは無理に航空優勢を取ろうとするのではなく、無人機や対空防衛ミサイルなどを効果的に活用した「航空拒否」戦略を選ぶべきだとしている。

「西側はウクライナの制空権奪取を望み、F16を供給したい衝動にかられているかもしれないが、まず戦略的に難しい問題について自問自答すべきだ。この種の議論は、いつも個々の兵器の性能が注目され、それを使いこなす戦略的健全性には焦点があてられていない」

遅れる供与、苛立つウクライナ

ウクライナはF16の供与を以前から求めてきた。米国はこれまで自国の戦闘機の供与には後ろ向きな姿勢を示してきたが、NATO諸国が持つF16のウクライナへの再輸出は容認する見込みだ。だが、ウクライナ政府が最終的にいつ、どれだけの供与を受けられるかは、現時点では明らかになっていない。
欧州のNATO諸国の一部は供与を表明しているものの、そのプロセスは遅々として進んでおらず、パイロットの養成さえ本格的には始まっていない。ウクライナのドミトロ・クレバ外相はこれまでに、当初の計画より遅れていることを認めている。
「6月に訓練を開始するとある国との約束があったが、彼らはまだ訓練開始の準備を続けているといっている。計算を間違えて、まだ時間が必要だと。だが、我々には時間がない」
ウクライナ上空の制空権をめぐる闘い
ロシアはウクライナへのF16戦闘機供与を核の脅威とみなしている=ラブロフ露外相
ゼレンスキー大統領も「ウクライナにはF16のためのインフラがない」と公言しており、そもそもウクライナ側も受け入れ準備ができていないのが現状だ。このため、現在ウクライナが進めるいわゆる「反転攻勢」には到底間に合わない。NATO高官もこれまでに「戦闘機に関する議論は重要だが、問題は反転攻勢のために短期的に解決されるものではない」と述べており、本格的な供与は来年以降になるとみられている。
F16供与をめぐっては、これまでにロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が「核兵器運搬能力のあるF16供与は無視できない」と米、英、仏側に伝えたと明かしている。また、F16がウクライナ上空に現れれば、「我々の側からも当然、軍事技術的な対応をすることになる」と警告している。
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