西側諸国によるウクライナへの兵器供与

【視点】「重く、大きく、手間がかかる」 英チャレンジャー戦車はウクライナ軍の助けにならず

ロシア軍はこのごろ、特殊軍事作戦のザポロジエ方面でウクライナの精鋭部隊・第82空中強襲旅団が投入されたことを確認した。この部隊にはこれまで温存してきた英戦車「チャレンジャー2」が配備されているとみられている。その長所と欠点は何なのであろうか、「挑戦者」たちはどのようなロシアの攻撃に直面するのだろうか。スプートニクが軍事専門家の話をもとにまとめた。
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西側の想定外

チャレンジャー2は1990年代に導入された英国の主力戦車。イラク戦争での同士討ち事案を除けば、損失を一度も出したことがないことで知られる。英国はこれまでに計28両をウクライナに供与しているが、これまでに戦闘での使用は報告されていない。
西側諸国の楽天家は、チャレンジャー2がドイツの「レオパルト」とともに「バターに熱いナイフを刺して溶かす」ようにロシア軍を壊滅させると期待していた。だが、実際にウクライナの反攻が始まると、この想定の甘さを認識させられた。
先に投入されたレオパルトはロシア側の用意した地雷原で立ち往生し、反攻開始からわずか数日で前線を退くことになった。平原が広がるザポロジエやヘルソンの前線では、西側の重戦車はロシアの砲撃と航空支援に対して無力だということが証明された。
西側諸国によるウクライナへの兵器供与
英戦車「チャレンジャー2」の欠点 ウクライナ軍にとっての有用性に疑問=米軍事誌

図体の大きさが仇に

高度な技術が使われているチャレンジャー2だが、サイズと重量という大きな問題を抱えている。
装甲の種類によっても異なるが、チャレンジャー2の重量は64~75トンといわれている。「燃料をむさぼり食うブタ」と揶揄される米戦車エイブラムスよりも重く、北大西洋条約機構(NATO)諸国の戦車のなかでは最重量級だ。
装甲が厚く重ければ防御が高まるのは確かだが、ここまで重いと泥や川、狭い道や橋、その他の自然の障害物がある地域ではただ移動するだけで困難が生じうる。さらに運用面では、チャレンジャー2用の特別な運搬車両、架橋装置、整備装置を常に近くに置き、頻繁に「世話」をする必要性がある。
さらに、燃料タンクの寸法は長さ8.3メートル、幅3.5メートル、高さ2.5メートルと大きく、野戦では最大数キロ離れた地点からでも近づいてくるのが分かる。チャレンジャー2がいかに先進的な装備を持っていたとしても、敵の攻撃を全く受け付けないわけではない。ロシアの偵察、砲兵、航空部隊が連携すれば、レオパルトの例のように射撃の的になることは十分考えられる。
西側諸国によるウクライナへの兵器供与
戦車チャレンジャー 2は事実上ウクライナ軍の役に立たず 運用に関する英国の要請で

攻守にも一曲

チャレンジャー2の主砲は、現代主力戦車では唯一のライフル砲となっている。エイブラムスやレオパルト、日本の「10式戦車」など、世界の主流は滑腔砲となっている。一般的にライフル砲は命中精度が高いなどメリットもあるが、弾の種類によっては威力や精度を大きく損なうことになる。
だが、チャレンジャー2に装備されている「L30A1・120ミリライフル主砲」の設計では、ロシアの戦車に比べて精度も威力も低い。おまけに、他のNATO戦車との砲弾の互換性もない。
さらに、いくら装甲が厚いとはいえ、ロシア製の対戦車システム「コルネット」の攻撃をまともに受ければ、レオパルトのように破壊されることは必至だ。
西側諸国によるウクライナへの兵器供与
英戦車チャレンジャー2 ウクライナに供与できたはずの43両が廃棄処分に

チャレンジャーは転換点になりうるか

露軍諜報部の退役大佐、ルステム・クルポフ氏は、過去2ヶ月間で改良された最大30両のレオパルト2を含む数百両のウクライナ戦車が失われたことを考慮すれば、28両のチャレンジャー2があるだけで戦場での流れを変えることは期待できないと話す。

「恐らくチャレンジャー2はレオパルトと同じように破壊されるだろう。なぜなら現代戦ではこの数の戦車が戦場にあっても何も解決できないからだ」

ルステム・クルポフ
露軍諜報部・退役大佐
さらに、戦車が損傷すれば半永久的に失われることになる。修理をしようとも英国でもウクライナでも多くの部品を製造していないからだ。英国からの追加供与も理論上は可能だが、最新の英国防省の報告書によると、現在修理無しで前線で戦えるチャレンジャー2は157両しかない。さらに英国内ではウクライナ支援が英陸軍の装備を「空洞化」させたとの批判もあがっており、政治的にも追加供与は簡単にはできない。
クルポフ氏はチャレンジャー2は戦略的備蓄であり、「突破口」が開けた際に導入される予定だったと指摘し、次のように締めくくっている。

「軍事理論上、まず突破口を開き、そこに最も強力な兵器で武装した機械化部隊を突っ込ませ、敵を包囲または分断するのがセオリーとなっている。だが、ウクライナは反攻でロシア側陣地を崩せなかっただけでなく、両軍を隔てる防衛線さえ克服できていない」

ルステム・クルポフ
露軍諜報部・退役大佐
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