ドネツク・ルガンスク人民共和国は19日、ロシア連邦への編入を望むとの考えを示した。そして同日、ヘルソン州とザポリージャ州で編入の是非を問う住民投票が実施されることが発表された。これらの領土の一部はウクライナの支配下にあるが、パスポートを見せるだけで誰でも投票できる予定だという。また、現地からロシアに避難してきた人々も、用意された投票所での投票が可能。
ドネツク・ルガンスク人民共和国の投票用紙には、「(自身の)共和国が連邦の構成要素としてロシアに編入されることを支持するか」という質問が書かれている。ヘルソン州とザポリージャ州では、「ウクライナから離脱するか、独立国家を作るか、ロシアに編入することを望むか」という3つの質問が書かれている。
投票は27日まで行われる。ドネツク人民共和国では150万人以上、ザポリージャ州では50万人以上、ヘルソン州では75万人が投票するとみられている。投票所では、外国人を含むオブザーバーが投票のプロセスを監視する。投票結果は投票後の5日以内に発表される予定。
住民投票が行われている地域のこれまでの歩み
ドネツク人民共和国
ドネツク人民共和国は東ヨーロッパ平原の南部に位置し、面積は約26500平方キロメートル。人口は約400万人で、石炭の採掘や冶金業、機械、化学工業、電力、食品、軽工業などが盛ん。
首都のドネツクは1860年代から炭鉱の町として発展し、帝政崩壊後の1918年にはロシア・ソビエト連邦社会主義共和国に組み込まれた。1932年にはドネツク州はウクライナ・ソビエト社会主義共和国に編入された。1938年にはスターリン州(現在のドネツク州)とボロシーロフグラード州(現在のルガンスク州)に2分された。1991年のソ連邦崩壊後、現在のドネツク人民共和国の領土はウクライナの一部となった。
2014年、ウクライナのヤヌコ―ビッチ政権が転覆したことで、ロシア語話者が多い東部では大規模な抗議活動がおきた。キエフ政権は鎮圧のため同年4月中旬からドンバスで軍事作戦を開始した。5月、ドネツク州は住民投票を行い、ドネツク人民共和国としてウクライナから独立した。
2022年のロシア軍の特殊軍事作戦では、港湾都市マリウポリを含むドネツク人民共和国の大部分がキエフ政権から解放された。
ルガンスク人民共和国
ルガンスク人民共和国はドネツク人民共和国の北部に位置し、面積は26700平方キロメートル。人口は約200万人で、機械、化学、石油化学工業、食品業、木工業、織物業、建材業などが盛んな工業地域。
中心都市ルガンスクは帝政時代の18世紀末、女帝エカテリーナ2世の命によって冶金工場が建てられたところから始まる。ソ連時代の1938年、上述のようにドネツク州から分離する形でボロシーロフグラード州となった。1990年にはルガンスク州に改名された。ソ連邦崩壊後、現在のルガンスク人民共和国の領土はウクライナの一部となった。
ドネツク州と同様、ルガンスク州も2014年のウクライナ政変の際に抗議活動が激化。5月には住民投票が行われルガンスク人民共和国としてウクライナから独立した。
2022年のロシア軍による特別軍事作戦の結果、ルガンスク人民共和国は旧ルガンスク州の境界線まで完全解放された。
ヘルソン州
ヘルソン州はクリミア半島の北のステップ地帯に位置し、面積は28500平方メートル。人口は約150万人で、農業、食品業のほか、造船業などが盛んな地域。
ロシア帝国のエカテリーナ2世は1778年、露土戦争(1768〜1774年)の際にロシア軍が建設した入植地にヘルソン市を設立する決定を下した。ヘルソンはロシア帝国の黒海艦隊の発祥の地であり、黒海艦隊の最初の基地が建設された。1944年、ソ連最高会議によってヘルソンを州都とするヘルソン州がウクライナ・ソビエト社会主義共和国の一部となった。1991年のソ連邦崩壊後、ヘルソン州の領土はウクライナの一部となった。
2022年のロシア軍の特殊軍事作戦ではヘルソン州はロシア軍の統制下に入った。
ザポリージャ(ザポロジエ)州
ザポリージャ州はヘルソン州やドニエプロペトロフスク州、ドネツク人民共和国などと境界を接する、面積約27200平方メートルの地域。州内には欧州最大のザポリージャ原発を抱え、エネルギー産業や各工業が盛んなほか、農業や食品業も行われている。
州都ザポリージャの発祥は18世紀。1921年までは露土戦争時のアレクサンドル要塞にちなんで、アレクサンドロフスクと呼ばれていた。1939年にウクライナ・ソビエト社会主義共和国に新たなザポリージャ州として加えられた。1991年のソ連邦崩壊後、ザポリージャ(ザポロジエ)州はウクライナの一地域となった。
2022年のロシア軍の特殊軍事作戦では、ザポリージャ原発を含む約70パーセントの地域が解放された。
1980年に建てられたザポリージャ原発はドニエプル川左岸のエネルゴダル市に位置している。ロシアのウクライナにおける特殊軍事作戦の開始直後からロシア軍の統制下となっており、ドニエプル川を挟んでウクライナ側と対峙する最前線に位置している。ロシア国防省によると、原発は7月以降、断続的にウクライナ側からの砲撃を受けている。
ザポリージャ原発では9月初旬、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長が率いる調査団が査察に訪れた。調査後にIAEAが発表した報告書では、原発の周辺を「安全ゾーン」とする必要性が訴えられているが、その後もウクライナ軍は攻撃の手を緩めていない。
2月中旬、ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国の指導者たちは、共和国の独立を承認するようロシアに求めた。ロシアのプーチン大統領は2月21日、両共和国の独立を承認する大統領令に署名した。プーチン大統領は、2022年2月24日午前のテレビ演説で、ドンバスの共和国の指導者の訴えを受け、「8年間ウクライナ政権による虐待、ジェノサイトにさらされてきた」人々を守るため、特殊軍事作戦を実行することを決定したと述べた。