尊敬する議長殿、ご列席の皆様。
私より前に登壇された皆さんの演説で、私達の住む星が、不可逆的な変化に直面していることが述べられました。新しい世界秩序が目の前で誕生しつつあります。未来の輪郭は、世界の富の公平な分配と文明の多様性を主張する世界の大多数と、消えつつある自らの支配を維持するために新植民地主義的な征服手法を使う少数の間の闘いのなかで創られつつあります。
平等の原則の放棄や交渉の不能性が「集団的西側」の「名刺」となって久しいです。世界の他の国々を高みから見下すことに慣れている米国人や欧州人は、文書や法的拘束力がある約束をすることはしばしばありますが、それを履行しません。ウラジーミル・プーチン大統領が指摘したように、西側諸国はまさに「嘘の帝国」なのです。
他の多くの国々と同様、ロシアはそのことを直接知っています。1945年、ワシントン、ロンドン、そして私達が第二次世界大戦の前線で敵を撃退するために協力していたとき、反ヒトラー連合の同盟国はすでにソ連に対する「想像を絶する作戦」を計画していました。4年後の1949年、米国はソ連への大規模核攻撃作戦「ドローンショット」の計画を仕上げました。
ソ連は独自の報復兵器を開発し、こうした狂気の計画は紙の上に留まりました。しかしながら、核戦争勃発の発想とそこでの勝利の幻想が米国の主要な軍事プランから消えるのには、1962年のキューバ危機での瀬戸際政策を待たなくてはなりませんでした。
「冷戦」末期のドイツ再統一や新たな欧州安全保障体制の合意において、ソ連は決定的な役割を果たしました。同時に、ソ連、その後のロシアの指導部に対しては、NATOの東方拡大を行わないという政治的確証が与えられました。こうした記録は私達の側にも、西側諸国の公文書にも残っており、自由にアクセスできます。ですが、この西側諸国のリーダーによる確証は欺瞞であり、履行しようとしていなかったことが明らかになりました。また、彼らは他者の安全を犠牲にして自身の安全保障を強化しないことや、いかなる国やグループ、国際機関の欧州における軍事政治的支配をも許さないことといった、OSCEのハイレベル合意がある公式の約束でさえ臆面もなく反故にし、NATOをロシア国境に近づけました。
2021年、ウクライナの非ブロック的ステータスを変えることなく、欧州における相互安全保障条約を締結するというロシアの提案は傲慢にも拒否されました。西側諸国は、国家転覆によって政権を掌握し、ロシアに対するハイブリッド戦争の勃発に向けて準備されたキエフの嫌露政権の軍事化を組織的に続けました。
米国や欧州のNATO諸国による近頃の共同演習は、「冷戦」終結後では前例のないものとなっていて、それにはロシアへの核攻撃を想定したシナリオも含まれています。ロシアに「戦略的敗北」を与えることが任務となっています。この狂気は、自らは罰せられることがないと感じている無責任な政治家を決定的に盲目にさせたと同時に、彼らの基本的な自己保存本能を失わせることになったのです。
ワシントン率いるNATO諸国は、攻撃能力の強化・近代化を進めるだけでなく、軍事対立を宇宙空間や情報空間にも広げようとしています。「欧州大西洋とインド太平洋地域の安全保障は不可分」という狡猾なスローガンのもとで、NATOの管轄範囲を東半球全体に拡大する試みは、NATO拡張主義の新たな危険現象となっています。ワシントンは、AUKUS、米日韓3カ国の「トロイカ」、日韓豪NZの「4カ国」のような、自分たちの管理下にある小さな軍事政治同盟をつくり、その参加国を太平洋の舞台で自分たちのインフラを導入しているNATOとの実質的な協力に引き寄せています。ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心に発展してきた包括的な地域構造の崩壊のために向けられた、隠されもしない露中に対抗するこうした努力は、すでに加熱している欧州に加え、新たにこの地域で爆発的な地政学的緊張の温床が出現するリスクを生み出しています。
米国やそれに完全服従する「西側集団」が「モンロー主義」の世界的投影を決めたという強い印象を受けます。この計画は幻想的であると同時に非常に危険ですが、「パックス・アメリカーナ」という名の新たな出版物の信奉者が止まることはありません。
世界の少数派は、物事の自然な流れを遅らせようと全力を尽くしています。 NATOのビリニュスでの共同宣言は、「ロシアと中国の間のパートナーシップの拡大」を「NATOへの脅威」としています。 フランスのエマニュエル・マクロン大統領はこの頃、在外大使らとの面会で、BRICSの拡大について深刻な懸念を表明し、これを「国際舞台の状況を複雑化し、西側諸国、特に欧州を弱体化させるリスクがあり、西側諸国がこれまで、そして現在も支配的な地位を占めている世界秩序や原則、様々な国際機関などの見直しが進んでいる」ことの証拠として言及しました。つまりこれは、誰かがどこかで自分たちなしで集まり、自分たちなしか自分たちの許可なしに仲良くしていれば、自分たちの支配にとってリスクとなるという告白なのです。だから、彼らにとってアジア太平洋地域でのNATOの発展は「良いこと」ですが、BRICSの拡大は危険なのです。
しかし、歴史プロセスの論理は容赦のないものです。世界の国々の大部分は、主権を強化し、国益、伝統、文化、生活様式を守ろうと努めるというのが主な傾向となりました。彼らはもはや誰かの命令に従って生きることを望んでいないのです。彼らは平等かつ互恵的な条件で、そうした国々や他の世界全体と友好を築き、貿易をしていきたいと願っているのです。台頭しつつあるBRICSや上海協力機構などは、グローバル・サウスの国々に共同発展の機会を提供し、客観的に台頭しつつある多極化構造の中で正当な地位を守っています。
おそらく1945年の国連創立以来初めて、世界の真の民主化を実現する機会が訪れています。このことは国際法の優位性を信じ、国際政治の中心的調整機関として、利益の公平なバランスに基づいて問題を共に解決する方法について合意する場所である国連の再興を願う人々に楽観的な観測をもたらすものです。
ロシアにとって他の方法がないことは明らかです。ですが、米国とそれに従属する「西側集団」は、人類を人為的に敵対的なブロックに分割し、共通の目標の達成を妨げる対立を生み出し続けています。彼らは真に多極的で公正な世界秩序の形成を阻止するためにあらゆる手段を講じています。彼らは悪名高い利己的な「ルール」に従うよう世界に強制しようとしています。
西側の政治家や外交官には、今一度国連憲章を注意深く読み直すよう促したいと思います。 第二次世界大戦後に創設された世界秩序の基礎は、国家の大小や政府の形態、国内の政治的または社会経済的構造に関係なく、各国の主権は平等であるという民主主義の原則です。
EUのボレル外相の「欧州は花咲く庭で、その周りはジャングルだ」という悪名高い発言にみられるように、西側諸国は依然として自らを他の人類よりも上だとみなしています。彼はその庭で嫌イスラム感情や他の世界の宗教の伝統的価値観への不寛容が蔓延していることは気に留めていないようです。コーランを燃やしたり、トーラーへの侮辱、正教聖職者の迫害、その他の信心を嘲笑する行為が欧州では日常茶飯事となっています。
西側諸国による一方的な強制的措置は、国家の主権平等の原則に対する重大な侵害です。ますます増えつつある違法な制裁の被害者となった国々では、そうした措置が最も弱い立場にある人々に打撃を与えることをよく知っています。食料やエネルギー市場における危機的状況を促進しています。
私達は、米国によるキューバへの前例のない非人道的な経済・金融封鎖の即時かつ完全な停止と、キューバをテロ支援国家に認定した不条理な決定の撤回を主張し続けます。また、米国政府はいかなる前提条件もつけずに、ベネズエラに対する経済的抑圧政策を放棄しなければなりません。 また、シリアの発展の権利を公然と奪っている米国とEUの一方的な制裁の解除を要求します。 国連安全保障理事会を迂回して導入されたいかなる強制的な措置にも終止符を打たなくてはなりません。そして、都合の悪い国々に圧力をかけるために安保理の制裁政策を操作する西側諸国の慣行も同様に、終わらせなくてはいけません。
西側の少数派による国際的議論の議題を全て「ウクライナ化」しようとする執拗な試みは、西側の利己主義の発現となっています。そして、他の多くの未解決の地域的危機は、数年または数十年続いているものもありますが、後回しにされています。
中東情勢の完全な正常化は、長年に渡るパレスチナ・イスラエル紛争を国連決議とサウジアラビアが提案したアラブ平和イニシアチブに基づいて解決することなしに達成はできません。パレスチナ人は厳粛に約束された彼らの国家成立を70年以上待ち続けていますが、調停プロセスを独占してきた米国は、これを阻止しようとあらゆる手を使っています。私達はすべての責任ある国々に対し、パレスチナ・イスラエル間の直接交渉再開の環境醸成のために力を合わせるよう呼びかけます。
アラブ連盟が第2の息吹をあげ、地域情勢における役割を強化していることは喜ばしいことです。私達はシリアのアラブ家族への回帰、つまり私達がイランと共に援助を進めているダマスクスとアンカラの国交正常化交渉を歓迎します。この明るい進展は、国連安保理決議2254に基づくシリア和平とシリアの主権回復を促進するアスタナ・フォーマットの尽力の追い風となるものです。
私達は国連の協力のもと、リビア国民が総選挙実施に向け質の高い準備をできるよう支援します。リビアはNATO侵攻の結果によって、10年以上立ち直ることができず苦しんでいます。NATOの侵攻では国家が崩壊し、サハラ・サヘル地域におけるテロの蔓延を招いたほか、欧州や世界の他の地域における数百万人の不法移民の波の水門を開きました。専門家は、「カダフィ大佐が核兵器プログラムを放棄した途端に、彼の政権は破壊された」と指摘しています。このように西側は核不拡散体制全体にとっての、重大なリスクをも設定したのです。
ワシントンとそのアジアの同盟国による朝鮮半島における軍事的ヒステリーのエスカレーションは憂慮すべきことです。朝鮮半島では米国の戦略的能力が蓄積されつつあります。人道的または政治的課題の解決を一番に据える露中のイニシアチブは拒否されています。
スーダン情勢の悲劇的な展開は、自由民主主義の教義を輸出する西側の実験失敗の新たな一例となりました。私達はスーダン内戦の早期和平に向けた、特に対立する勢力の直接対話を実現させるなどの建設的なイニシアチブを支持します。
セルビアのコソボ地域おける情勢悪化が続いていることにも、懸念を抱かざるを得ません。NATOによるコソボに対する兵器供与と軍創設支援は、安保理決議1244に著しく違反しています。世界中がウクライナにおけるミンスク合意の悲しい歴史がバルカン半島で繰り返されているのを見ています。ミンスク合意ではドンバスの共和国に特別なステータスが認められましたが、西側諸国の支援を受けたキエフ政権は公然とその履行を拒否しました。これと同じように、EUは今もコソボの言語と伝統に対して特別な権利を与えるとするベオグラードとプリシュティナの2013年の合意を、コソボ側に履行させようとしていません。いずれの例でもEUは合意の保証者でしたが、その命運は同じなようです。「スポンサー」がこんなのであれば、結果もああなるのです。今ブリュッセルは、アゼルバイジャンとアルメニアの「調停サービス」を押し売りしており、ワシントンと共に南コーカサス地域の不安定化を進めています。エレバンとバクーの指導者が両国の主権の相互承認の問題を解決した今、平穏な生活とその確立、信頼醸成を強化するときがきました。ロシア平和維持軍はあらゆる方法でこれに貢献します。
書面上に残っている「国際社会」の問題について語れば、私達は植民地主義及び新植民地主義の慣行に終止符を打つために、国連総会決議に従って植民地解放プロセスを最終的に完遂することを求めます。
2009年に気候変動適応プログラムの資金として途上国に年間1000億ドルを提供するという西側諸国の約束の運命は、西側諸国が全世界に強制しようとしている「ルール」を示す顕著な例となりました。この履行されなかった約束と、米国やNATO、EUがウクライナの人種差別主義政権への支援のために過去1年半で消費した推定1700億ドルと比較してみましょう。比較してみれば、「啓蒙された西側の民主主義」とその悪名高い「価値観」の、あなた方に対する態度が分かるでしょう。
既存のグローバルガバナンスを手掛ける構造の早期改革のための機は熟しました。これらは長い間、時代の要請に応えてきませんでした。米国やその同盟国はグローバル・サウス諸国の現実の経済的・財政的な重みを認め、IMFや世界銀行における投票枠割り当てに対する人為的な制限を放棄しなければなりません。WTOの紛争解決のための活動に対する制限も直ちに解除されるべきです。
安全保障理事会の拡大も、アジア、アフリカ、ラテンアメリカといった世界の大多数の代表不足を解決するという点に限定して、需要が高まっています。重要なのは常任、非常任を問わず新たな安保理理事国が、それぞれの地域のほか、非同盟運動、「G77」、イスラム協力機構といった世界的組織の権威を利用できるようにすることです。
より公平に国連事務局を組織する方法を検討する時期がきています。長年にわたり適用されてきた基準は、世界情勢における国家の真の重みを反映しておらず、NATOや欧州諸国の市民の法外な支配権を人為的に確保しています。この不均衡はその参加者らを国際機関の本部所在地の国の立場に縛り付ける永久契約のシステムによってより深刻になっています。こうした国際機関の大部分は西側の政策を行う国々の首都に置かれています。
新しいタイプの統合体には国連改革を支援するよう求められています。そこでは指導者と従うもの、先生と生徒などは存在せず、全ての問題はコンセンサスと利益のバランスによって解決されます。それは第一にヨハネスブルグでのサミット後に権威を大幅に高め、真に世界的な影響力を持つことになったBRICSです。
地域レベルでは、アフリカ連合、CELAC、LAS、CCASGなどの国際機関が再興しています。また、ユーラシアではSCO、ASEAN、CSTO、EAEU、CIS、中国の「一帯一路」構想といった枠組み内での統合プロセスの調和が勢いを増しています。大ユーラシア・パートナーシップは自然に形成されていて、大陸全体の全ての組織や国々が例外なく参加することができます。
残念ながらこうした前向きな傾向に、世界の政治、経済、金融における優位性を維持しようとする西側諸国は、ますます攻撃的な試みで対抗しようとしています。世界が孤立した貿易圏やマクロ地域に細分化されるのを防ぐのが、共通の利益になります。ですが、米国とその同盟国がグローバリゼーションの過程に平等で公正な性格を与えることに同意したくないのであれば、世界の他の国々は自国の社会経済的展望や技術的発展を旧宗主国の新植民地主義的本能に依存したものにしないよう対策を講じるため、結論を導くことになるでしょう。
主な問題はまさに西側諸国にあります。なぜなら、直近のインドでのG20サミットで示されたように、発展途上国はG20を含む場で交渉をする用意があるからです。サミットの主な結論は、G20は政治化を避け、世界経済と金融を管理するための全体が受け入れ可能な措置を模索するという創立目的を遂行することができ、またそうあらなくてはならないということです。対話と合意の機会があります。それを逃してはいけません。
こうした傾向は国連事務局で十分に考慮されるべきです。国連事務局の使命とは、国連の屋根の下にある全ての国々の同意を得るために奉仕することで、特定の勢力の側につくべきではないのです。
国連は第二次世界大戦の結果として設立されたものであり、これらの結果を修正しようとするいかなる試みも、この世界機関の基盤を損なうことに繋がります。ファシズムと軍国主義日本の打倒に決定的な貢献をした国の代表者として、主にウクライナやバルト三国などの欧州諸国で見られるナチストとその協力者の復興という現象に注意を促したいと思います。特にドイツとイタリア、日本が去年、ナチズムの英雄化を容認しないことに関する国連総会決議に反対票を初めて投じたことは憂慮すべきことです。この遺憾な事実は第二次世界大戦中の人道に対する罪に対する、これらの国々の悔恨の誠実さに疑問を投げかけるものであり、これら諸国が国連の正式加盟国として認められたときの条件に矛盾するものです。世界の大多数と国連憲章の原則に反する、この「変化」について特別な注意を払うよう強く呼びかけます。
議長殿。
今日、人類は過去に何度もあったように、再び岐路に立たされています。歴史がどのように進むかは、私たちにかかっています。大戦争と先人たちが代々築き上げた国際協力メカニズムの完全破壊を避けることは、共通の利益です。事務総長は、次の年に「未来サミット」を開催するイニシアチブを演説で述べられました。
この取り組みの成功は、国連の国家間組織的性格を遵守しながら、加盟する全ての国々の利益の誠実かつ公正なバランスの実現によってのみ保証されます。9月21日に行われた「国連憲章擁護友の会」のメンバーは、こうした結果の達成を積極的に促進することで合意しました。
グテレス事務総長が今回の総会直前に記者会見で、「もし我々が平等と団結のもとに平和と繁栄を享受したいのであれば、指導者たちには世界全体のため私達の共通の未来を設計する上で妥協を導く責任を負っている」と述べられました。これは世界を「民主主義」と「権威主義」に分けて考え、自らの新植民地主義的な「ルール」だけを全員に押し付けようとする人々への良い答えとなっています。