【視点】日中首脳、2国間関係の目標と「レッド・ライン」を確認

© 写真 : Prime Minister's Office of Japan岸田文雄首相と習近平主席
岸田文雄首相と習近平主席 - Sputnik 日本, 1920, 19.11.2022
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日中首脳による5つの共通認識は、両国関係の安定に向けた重要な一歩であり、日中首脳が交わした握手は、政治における信頼醸成に向けた用意があることを示すシグナルである。ただし、日本は依然として、台湾問題に関する米国への支持を緩めてはいない。タイ、バンコクで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力)サミットに出席した日本の岸田文雄総理大臣と中国の習近平国家主席が会談を実施した。アジアにおける2つの経済大国の首脳は、今回の会談で前向きな姿勢を示し、両国の政治における関係を正常化する意思を確認した。
今回の日中首脳会談について、遼寧大学日本研究センターの陳洋客員研究員は、日本と中国の首脳会談は偶発的な軍事衝突を避けるのを可能にするものだと指摘し、次のように述べている。
「中国と日本の首脳は、バンコクで開かれた第29回APEC首脳会議への参加という機会を利用し、対面形式で、相互に有益な地域問題や国際問題について意見を交わしました。これは、偶発の衝突を大きな戦争に発展させないために、誤まった判断や決定、紛争の監視を避ける上で非常に重要なことです。とりわけ、特筆すべきなのは、両首脳が5つの項目で合意したことです。その5つの項目には、首脳レベルでの対話と交流を強化すること、経済ハイレベル対話を早期に行うこと、また人的・文化交流対話の早期に再開することなどが含まれています。また、海空連絡メカニズムの枠内での防衛当局間のホットラインの早期運用開始についても合意が交わされました。さまざまなレベルでの対話と交流の強化は、中国と日本の政治的な信頼を深め、中日関係の将来的な発展を促進するものです」
一方、静岡県立大学国際関係学部の教授で、現代中国・日中関係を専門とする諏訪一幸氏は、日中首脳による握手は、確固たる信頼関係を構築しようという両者の意思の現れだと指摘している。
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「1.今回の最大の目的は、両国の指導者が直接会って、相手を知ること、できれば一定の信頼関係を構築することにあった。したがって、二人が笑顔で握手したことで、その目的は達成された。
2.また、少なからぬ成果もあった。
(1)双方のレッドラインが確認できたこと。つまり、岸田さんは、尖閣を含む東シナ海問題や中国の軍事活動を中心に、日本側の懸念を率直に伝えた。また、中国側の懸念が、歴史問題、台湾問題、海洋問題(尖閣を含む)にあるのを理解できた。
(2)一方で、グリーン経済、医療・介護・ヘルスケア(以上、日本側)、デジタル経済、財政金融、サプライチェーンの安定化(以上、中国側)など、協力可能な分野が確認できたこと。
3.今回の会談で、関係改善に向けた流れが生まれた。しかし、米中対立も背景とした、中国の強硬な外交姿勢を考えると、すぐに具体的成果が表れるとも思えない。こうした認識を持ちつつ、あらゆるレベルで緊密に、また、忍耐強く、意思疎通と交流を行っていくことが重要である」
一方、陳洋氏も、今回の首脳会談で両首脳が掲げた目標を達成するには時間が必要だと述べている。
「中日関係は、安定の欠如により、ほぼどん底状態で、それを高いレベルに引き上げることは困難でした。相互に対する政治的な信頼がなかったために、日本は中国を『仮想敵国』と見なし続け、米国を北東アジアの問題に引き入れ、米国がアジア太平洋地域で創設したさまざまな『集団』に積極的に参加してきました。一方で中国は、日本のネガティブな行動を背景に、日本を米国と戦略的自律性を奪おうとする国の『コマ』であると位置付けてきました。その結果、中国と日本の距離はますます大きくなり、北東アジアが直面している安全と安定におけるリスクの増大を引き起こしました。中国と日本の政治上の高度な相互信頼を伴う安定した二国間関係の構築だけが、地域の長期的な安全と安定を促進することができるのです。中国と日本の異なる社会体制と民族的特徴を考慮すれば、二国間関係の正常化には一定の時間を要することは疑いようがありません。また、日本が中国と同じ道を進み、『互いにとっての脅威となるのではなく、協力のパートナーとなる』という政治的コンセンサスを具体的な政策にし、それを実現していくという条件が達成されて初めて、新たな時代の要求に応えるような建設的で安定した中日関係が構築できるのです」
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一方、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所、アジア太平洋研究センターのクリスティーナ・ヴォダ上級研究員は、「スプートニク」からのインタビューに答え、日中関係の安定化の主要な障壁の一つとなっているのは、台湾問題に関して日本が米国を支持していることだと指摘している。
「日本は、台湾問題をめぐり、米国を支持することを拒否することはできません。これは明確なことです。それは、日本が米国の軍事・政治同盟国だからです。ここ数年、両国の戦略上の協力は強化されています。日米は共同で、何より中国の軍事的、政治的、経済的影響を抑止することを目的とした、いわゆる自由で開かれたインド太平洋地域というコンセプトを進めています。もし米国参加の下で台湾をめぐる有事が起きた場合、日本は必ずそれに巻き込まれることになります。中国を含む、あらゆる当事国はそのことをよく理解しています。中国は、日本が台湾問題において『レッド・ライン』を超えないよう期待していますが、米国との緊密な関係を考えれば、そうはならないだろうと考える根拠はありません」
ヴォダ氏はまた、バンコクでのサミット終了後、日本は中国のいわゆる「軍事的脅威」に対する非難をいくらか弱めてくる可能性はあるとの見方を示している。
「日本は新たな国家安全保障戦略を策定しようとしています。その基礎として、防衛費の増額が見込まれています。北朝鮮からの脅威と中国の軍隊建設による危険というのが、日本の防衛費増額の理由です。しかし、中国の脅威についての懸念はいくらか緩和される可能性がありますが、その問題が将来的に大々的に取り上げられることは間違いありません。この問題が日本の政治的議題から外れることはないのです」
日本と中国の首脳は、両国関係の安定と発展に向け、5つの共通認識に達した。これはほぼ3年ぶりに開かれた日中首脳会談の重要な成果である。一方で、この共通認識というのは、それぞれの意向を宣言するものである。
今回の会談では、領土問題を解決に向かわせ、台湾問題における中国の主権への日本の介入を停止し、いわゆる中国の「軍事的脅威」を煽り立てるのを止めるといった問題に関しては、何ら重要な決定は下されなかった。
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