沖縄の米軍基地問題

【解説】ひろゆき氏炎上騒動で露呈 沖縄の火種を抱えたまま「次の戦争」に進む日本

ひろゆき氏の「0日にしたほうがよくない?」発言が引き金となり、日本国内では沖縄の米軍基地問題の議論が再燃している。それは同氏の発言の枠を超え、「基地反対派・賛成派」の世論の対立や「本土と沖縄」の対立関係を指摘する論客もいる。このことは第二次世界大戦・沖縄返還後に残った負の遺産が現在まで解決されていないことを露呈させ、日米安保条約を主軸にした今後の日本の防衛戦略にも大きな影を落としている。
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ひろゆき氏の発言、本人も予期せぬ炎上

匿名掲示板「2ちゃんねる」の創設者で実業家の「ひろゆき」こと西村博之氏が10月3日、沖縄県名護市辺野古の埋め立て工事が進む米海兵隊の新飛行場近くの座り込み抗議の現場を訪れ、「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」とSNS「ツイッター」上で投稿した。
この発言を受け、「不快」「浅はか」「侮辱するのはよくない」などと批判がよせられ、新聞やメディアでも取り上げられて「炎上」状態となった。一方でコメント欄には「座り込みって意味調べてみたら?」とひろゆき氏に同調する声や、「当たり前だが24時間続いているわけではない」と冷静な反応も。人によって多種多様な意見がみられた。
その後、ひろゆき氏が抗議行動をする人や沖縄の人々の日本語を否定するような発言をしたことで火に油を注ぐ形となったことは、以前のスプートニクの記事で紹介した通りだ。
【解説】ひろゆき氏 新たな物議を醸している
今回の発言に関しては、本人はここまで炎上するとは思っていなかったようだ。騒動後にYouTubeのライブ配信で視聴者から見解を聞かれた際に、ひろゆき氏は次のように述べている。

「座り込みという言葉にそこまでこだわるとは思わなかったんですよね。『じゃあ抗議でいいですよ』っていうので終わると思ってたんですけど、一日一秒でも座り込みであるという、そんなに座り込みという単語を使いたいかみたいな。そこらへんは僕の予想を超えてましたね」

日本では芸能人や政治家がSNS上で「炎上」した場合、当該投稿を削除し、謝罪することが多いが、ひろゆき氏にはそれは当てはまらない。騒動後もいつものひろゆき節で視聴者を沸かせ、あっけらかんとしている。
インターネット上では未だにひろゆき氏への反論、そのまた再反論が渦巻いており、例を挙げればきりがない。だが今、議論は同氏の発言の枠を超え、沖縄の米軍基地をめぐる構造的な問題に発展している。
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沖縄の基地問題の根深さを露呈

ひろゆき氏の騒動を機に日本国内では沖縄基地問題の議論が再燃している。日本メディアの間では沖縄の基地反対・賛成をめぐる複雑な県民感情から、「米軍基地を押し付ける」本土による沖縄への構造的差別を指摘する声もみられるなど、沖縄の基地問題の根深さを再確認させられた。
基地問題をめぐっては沖縄県内でも多様な意見がみられ、単純に賛成派・反対派と割り切れない複雑な事情があることは広く知られている。77年前の沖縄戦の地獄を経験した世代や、米兵による不法行為や米軍機の事故の被害者となった人々の基地に強く反対する声が上がる反面、基地と地元経済が結びついているため単純に反対とはいえないという意見もよく取り上げられる。
そうしたなか、沖縄の基地負担のおかげで平和と安寧を享受している「本土の日本人」の、基地問題への無関心や無理解を指摘する声もある。
群馬県生まれで現在は福岡県在住という地元放送局「RKB」の神戸金史解説委員は、出演したラジオ番組でひろゆき氏の投稿について、「同じ『本土生まれ』として、申し訳ない」と話している。そのうえで、本土の日本人を「痛みを伴わず平和だけを享受する人」と指摘し、個人的には沖縄に謝りたいことがあるとして、江戸時代から現代に至るまでの本土の日本人の沖縄への態度、関わり方を自己批判的に述べている。ここではその一部を紹介したい。

「東村高江の牧草地に、アメリカ海兵隊の大型輸送ヘリが不時着・炎上した事故(2017年10月11日)から、きょうでちょうどで5年。それに昨日気づいたんです。すっかり忘れていて、ごめんなさい。

日本各地の基地を撤去させたけど、実は米軍占領下の沖縄に移されただけでした。福岡からも、そう。自分たちの目の前から基地がなくなったことだけで喜んでいて、ごめんなさい。

沖縄は、本土決戦の前に、時間稼ぎするための「捨て石」と位置付けられました。沖縄守備軍が住民ごと南部に避難したことで、多くの民間人を戦闘に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

神戸氏の発言に対してインターネット上では「国民の総意のように語るな」「思考そのものが基地反対派」などと批判的な意見もみられる。いわゆる「自虐史観」に基づいた見解だとみることもできるだろう。
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沖縄は対中有事の最前線

基地問題を日米関係や台湾問題を含む地域情勢などより広い観点からみると、沖縄をめぐる日本のいびつな安全保障体制の骨格が浮かび上がってくる。
8月のペロシ米下院議長の訪台をめぐる問題のように、台湾海峡における米中の対立は先鋭化している。中国の習近平国家主席は「平和的再統一をめざすが、武力行使は放棄しない」と強硬姿勢をみせており、米国防総省は2027年にも中国が台湾を武力奪取する準備を整えると警戒を強めている。
こうしたなか、岸田政権はこれまでに今後5年間で防衛力の抜本的強化を目指すとしており、8月に明らかになった防衛省の2023年度予算概算要求は過去最大の約5兆6000億円となっている。
これまでに浜田靖一防衛相も、有事の際に敵の通信やレーダーを妨害する電子戦部隊を来年度にも与那国島に配備するとし、石垣島にも今年度中に陸自のミサイル部隊を置く方針を示している。また、対中有事を念頭に備蓄・補給面を強化するため、奄美大島(鹿児島県)に燃料タンクや火薬庫を増設する考えも明らかにするなど、沖縄を含む南西諸島の防衛強化に動いている。
日本政府がこうした動きを進めるのは、台湾や中国と海を挟んで接する沖縄が、対中有事におけるもっとも重要かつ最前線の戦略的拠点になるからにほかならない。
ロシアの軍事専門家で東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏は、出演した「テレ東BIZ」の番組のなかで興味深い指摘をしている。
同氏は台湾有事の際、日本がウクライナ紛争におけるポーランドのような立ち位置になるとみている。直接参戦はできなくても、日本から発進する米軍の偵察機が台湾に情報を提供するなど、準参戦国となりうるというわけだ。また、中国との部分的な衝突や離島占拠、沖縄に限定的な攻撃を受ける可能性なども現実的な脅威として議論すべきだとの考えを示している。
また、小泉氏は過去に沖縄県宮古島で新設された陸上自衛隊・宮古警備隊の編成式に参加した際、防衛省側が基地負担を受け入れている住民に対し十分な説明責任を果たしていなかったと指摘し、次のように述べている。

「住民からしてみれば、自衛隊がいなければ中国軍が来ても無血占領かもしれないが、自衛隊がいたらそこで戦闘が起こる。でも、そこは日本の国家主権のためだからということで受け入れているのに、日本政府が住民に適当な事しか言っていないなら、『中国に無血占領してもらえばいい』と考える人が出てもおかしくない」

ここで指摘されているのは自衛隊の部隊の話だが、住民が日本全体の安全保障のために基地を負担しているという点においては米軍基地と同じだ。
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安保問題で「主権のない」日本

戦後77年が経っても沖縄に残る米軍基地をめぐる論争は、日米安保体制がもたらした構造的問題といえるだろう。
日本は非核保有国だが、周りを見渡すと中国、北朝鮮、ロシアといった核保有国に囲まれている。こうしたなか、安全保障を確固たるものとするために米国の「核の傘」に下に隠れ、国内に点在する米軍基地の抑止力に依存せざるを得ない状況となっている。
こうした日米同盟の力関係を、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は次のように指摘している。

「米国は2回にわたり核兵器を使用し、日本の広島と長崎を破壊した。米国はいまだに、ドイツや日本、韓国などの国々を冷笑的に『同盟国』と呼びながら、事実上占領しているのだ」

これはウクライナ情勢をめぐり露米、露日関係が悪化したなかでの発言ではあるが、言い得て妙といえるだろう。「日本は米国の51番目の州」と揶揄されることがあるが、これは日米同盟に依拠するあまり、安全保障分野で自国の自由度が低いことから出た一種の「自虐ネタ」なのかもしれない。
実際に、直近でも外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」などの改定に向けては、政府は米高官に意見聴取を行っていると報じられている。このことは、日本の防衛が米軍ありきであることを証明している。
このように、覇権国・米国と敗戦国・日本のいびつな同盟関係の間で翻弄され続けてきた沖縄。そこで第二次世界大戦終結後、本土復帰を経ても残された基地問題は未解決のままだ。
日本が米国の軍事力に頼り切っている以上、沖縄は対中国における戦略的な最重要拠点であることは今後も変わらない。もしかすると、沖縄の基地問題は日米同盟が存在する限り、永遠と解決されないのかもしれない。日本はこの火種を抱えたまま、望ましからぬ「次の戦争」に向かって着々と準備を進めている。
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