【解説】辞任ドミノの岸田内閣 尽きない永田町の「政治とカネ」問題 ロッキードからモリカケサクラ

英国でスキャンダルや政策の失敗でジョンソン、トラス両元首相が相次いで辞任した混乱の末に、10月にスナク首相が就任してから25日で1ヶ月が経った。一方、英国と政治体制のよく似た立憲君主・議院内閣制の島国、日本でもこうした政治的「ドタバタ劇」は対岸の火事ではなくなってきている。
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岸田首相、揺らぐ足元

昨年10月に念願の首相の座に就き、当初は支持率も高く順風満帆な政権運営を行ってきた岸田文雄首相だが、ここにきて相次ぐ閣僚の辞任・更迭によって足元が揺らいでいる。
今年7月の故・安倍晋三元首相襲撃事件を契機として明るみに出た政治家と旧統一協会(世界平和統一家庭連合)の関係を巡る問題で、山際大志郎・前経済再生担当相が10月下旬に辞任。
その約2週間後には葉梨康弘・前法相が「だいたい法相は朝、死刑のはんこを押す。昼のニュースのトップになるのはそういうときだけという地味な役職だ」という失言で内閣を去った。
また同時に、寺田稔・前総務相の不透明な政治資金報告をめぐる問題も表面化。岸田首相は外遊先のタイで内外の記者団を前にした会見で更迭検討を明らかにし、帰国後すぐに決断した。
辞任オンパレードの岸田内閣 1か月で3閣僚が更迭
3人の閣僚のドミノ辞任は政権に打撃を与えているが、スキャンダルはまだ収束する気配がない。
21日には寺田前総務相の後任、松本剛明・新総務相が収容人数を超過する「パーティー券」を販売していたと、しんぶん赤旗が報じた。23日以降、秋葉賢也・復興相についても政治資金や旧統一教会に関連した問題が指摘されている。
さらには、岸田首相自身にも疑惑が浮上している。文春オンラインは22日、昨年10月の衆院選に伴う選挙運動費用収支報告書をめぐり、宛名と但し書きがない領収書94枚を添付したと報道。岸田首相は「領収書の記載の一部に不十分な点があったと確認した」と認めた上で、支出自体は適切だったとして再発防止を図る考えを示したが、これだけで国民や野党が納得するはずもない。
このニュースに対しインターネット上で政治アナリストの大濱崎卓真氏は「首相の領収書問題としてセンセーショナルに取り上げられていますが、実務上のことも考えてみる必要があるのでは」とコメントを寄せている。
一方、一般ユーザーからは「税金を使う以上、領収書は全てネット上に公開するくらいの改革が必要」「大臣更迭の任命責任やリーダーシップ以前の問題として、岸田氏の資質も問題であって、内閣総辞職をするべき」と厳しい声もあがる。
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「政治とカネ」、過去には

古今東西、政治にはカネをめぐる事件やスキャンダルがつきものだ。ここでは特に世間の注目を集めた、日本国内の事例を振り返ってみよう。

ロッキード事件(1976年)

米航空機大手ロッキード社の日本への航空機販売をめぐる戦後最大の汚職事件。日米政財界を巻き込んだほか、英国、オランダ、サウジアラビアなど世界各国で類似事案・疑惑が浮上した。事件で田中角栄元首相は5億円の賄賂を受け取ったなどとして収賄罪で起訴され、東京地裁で有罪判決を受けたが、上告審の最中の1993年に田中元首相が死亡したため控訴棄却となった。

リクルート事件(1988年)

求人広告・人材派遣大手リクルートの子会社で未上場の不動産会社「リクルートコスモス」の未公開株が賄賂として与野党の国会議員らに譲渡され、国民の政治不信を招いた。賄賂を受け取ったとされる議員のなかには、竹下登首相、宮沢喜一蔵相、小渕恵三官房長官、小沢一郎官房副長官、安倍晋太郎幹事長、渡辺美智雄政調会長、中曽根康弘元首相、橋本龍太郎元運輸相、森喜朗元文相(肩書きはいずれも当時)ら首相経験者や政界の大物の名前もあった。

平成に入っても…

第一次安倍政権時代の2007年、不可解な政治資金の使途や政治献金の問題で松岡利勝元農林水産相が槍玉にあがった。この事件は松岡氏が当時の安倍首相や国民宛ての謝罪を含めた遺書を残し、議員宿舎の一室で自ら命を断つという異例の結末を迎えた。現職閣僚が自殺するのは日本が連合国のポツダム宣言を受諾し無条件降伏した1945年8月15日に、皇居前で割腹自決した阿南惟幾・元陸軍大臣以来、史上2人目。また、松岡氏の後任の赤城徳彦元農水相も同様の問題が指摘され、就任後わずか2ヶ月で辞任している。

「モリカケサクラ」、逃げ切った安倍元首相

第二次安倍政権(2012~2020)でも「政治とカネ」の問題は尽きなかった。そのなかでも大きく取り上げられたのが、2017年に表面化した森友学園問題で、国有地の払い下げをめぐる大幅な「値引き」に官邸の関与があったのではないかと疑われた。同年に獣医学部新設の許可をめぐる安倍元首相の便宜が指摘された加計学園問題とあわせて「モリカケ問題」と名付けられ世論を騒がせた。
だが、安倍元首相は疑惑をきっぱり否定し、国会での野党の追求ものらりくらりとかわして乗り切った。その年、首相の意図を汲んで動く官僚の態度を表した「忖度」が流行語になった。
2019年に大きく取り上げられた「桜を見る会問題」での公職選挙法違反をめぐる疑惑では、首相自身も検察の捜査対象となったが、結果的に不起訴となり「モリカケサクラ」で安倍元首相は逃げ切った形となった。
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岸田流で危機を乗り切れるか

記憶に新しい河井克行元法相・案里元参議院議員の公職選挙法違反のような大規模な買収事件は別として、現在の岸田政権を取り巻く収支報告をめぐる疑惑は政治資金規正法の穴が問題となっている。現行の同法のままだと問われるのは道義的責任のみで、刑事事件に発展する例は少ないと指摘される。抜け道が多数用意されていて、日本の各メディアはこれまでも「ザル法」だと再三批判してきたが是正されていない。
ただ、いくら「合法」であったとしても、「政治とカネ」の問題があがれば野党や国民からの批判は避けられず、政権運営にも支障をきたしかねない。実際に岸田内閣の支持率は、昨秋の発足から今年7月ごろまでは各社の調査でおおむね50パーセント超をキープしていたものの、夏以降に下落。閣僚辞任が相次いだ11月時点では一部で初の3割割れとの結果も出ている。
NHK政治マガジンは一連の辞任・更迭劇について、岸田首相に近い政府関係者の話として、次のような興味深い視点を伝えている。

「すぐに辞めさせずに、きちんと自分で説明させて猶予を与える。説明責任を果たさせるのが『岸田流』なんだ。以前の政権の、問題が発覚したらすぐに首を切っていた『安倍総理大臣の手法』にみんな慣れているから、『なんでもっと早く辞めさせないんだ』と批判するが、これが岸田総理のやり方だ」

なるほど、「聞き上手」の岸田首相らしい対応だが、現在のところ裏目に出ていると言わざるをえない。自民党内からも首相の任命責任、後手後手の対応を批判する声があがるとされるなか、何らかの形で軌道修正を迫られることになるだろう。
外交、安全保障、新型コロナ、経済対策など重要課題が山積するなか、岸田政権は発足以降最大の危機に直面している。首相自身は否定しているものの、年末年始の内閣改造も取り沙汰されている。この重要局面で起死回生の一手を打てるのか、それとも小手先の対応で政権延命を図るだけなのか、「岸田流」の手腕が試される。
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