日経新聞は今回の相場下落には主に2つの原因があると分析し、伝えている。第一に、上限価格の制裁発動による世界的な供給不足のリスクが後退したこと。次に、世界で懸念される景気後退で石油需要が減るとの公算が大きくなったことだという。同紙は次のように指摘する。
「価格上限規制は、直後に小幅に価格を押し上げたものの、大きな市場の動揺には至らなかった。制裁発動しても、ロシア産の流通が急減するとの警戒感が後退したことが一因だ。供給リスクが和らいだことで需要懸念がより強く意識され、相場の急低下を招いた」
世界市場の影響を受けロシア産石油も価格が低下し、欧州など向けの指標・ウラル原油も9日には43.73ドルの値をつけた。この背景を米メディア「ブルームバーグ」は次のように伝えている。
「ウラル原油は今買い手が少なく、遠方の購入者を惹きつけるために値段を下げざるをえない状態となっている。だが、これは上限価格の効果というより、欧州の従前の制裁や自主規制といった措置の結果だろう」
だが、同じロシア産石油でも、シベリア産石油の指標となるESPOは異なる様相を呈しているという。ESPOは主にアジア諸国向けとなっているが、輸送コストが高くなっている。値下げをしているものの需要は欧州向けよりは高く、9日時点でも1バレル=68.72ドルで取引されている。
世界の原油相場の低下でエネルギー危機のボルテージは下がったとともに、西側諸国による上限価格は事実上「歯抜け」状態になっているのが現状だが、今後については不確定要素が多く予断を許さない状況だ。今後の世界市場の動向を左右する要因は主に次のようになっている。
ロシアの対抗措置
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官はこれまでに、上限価格の導入について、「ロシアは受け入れない」と述べ、対応を早急に検討するとしている。また、アレクサンドル・ノバク副首相は、たとえ減産につながったとしても、ロシアは上限価格制度で原油を販売しないとしている。
まだ、具体的な対抗措置は発表されていないものの、減産や部分的禁輸措置、極端なシナリオでは上限価格設定国に対する全面輸出停止などが考えられる。
OPECプラスの対応
石油輸出国機構加盟国やロシアなどの産油国からなるOPECプラスは4日、世界経済の先行きが不透明であることにより、石油需要の減少を見込んで減産水準を維持する決定を下した。だが、前出の日経新聞では「現状の相場水準は中東産油国の財政収支が均衡する価格を下回るため、年明け以降に追加減産に向けて動く可能性がある」と指摘されており、今後更なる減産が進む可能性がある。
中国の経済活性化
中国がゼロコロナ政策の緩和を進めるなか、コロナ禍以降減退している経済活動が再活性化すれば石油需要も高まるとみられている。一方で、その速度や度合いについてはまだ不透明で、世界の石油価格に与える影響も未知数だ。
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