「日本人の知らないロシアの魅力を伝えたい」 日露スタートアップの架け橋を目指す、RouteXの大森貴之さん

RouteХ Inc.代表の大森貴之さんはスタートアップのスペシャリストだ。海外渡航歴60カ国、Facebookの最も重要なカンファレンス「F8」の参加経験、そのほかにも多くの素晴らしい実績を持つ。そんな大森さんが特に関心を抱いているのがロシアだ。RouteХはどのように日露のスタートアップの発展を促進しているのか?スプートニクがインタビューでお伝えする。
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RouteХは何をしている会社?

大森さん:「弊社RouteXは、海外のスタートアップエコシステムのリサーチとコンサルティングを主に行っている会社です。例えば、日本の会社がロシアのスタートアップと一緒にビジネスをしたい、或いはその逆の場合に、日本やロシアのマーケット事情をお伝えし、リサーチ・コンサルティングを行うことで進出をサポートします。ロシアと日本のスタートアップの架け橋になる会社は少なく、そこにRouteXはチャンスを見出しています。実はロシアだけでなく、シリコンバレーや、東南アジア、中東などに対してもビジネスを行っていますが、特にロシアに注力しています。」

どうしてロシアにフォーカスすることになったのか?

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大森さん:「高校時代に、BRICs(ブリックス)ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、つまり、これから発展すると見込まれる国についてのニュースを見たとき、特にロシアに今後の成長の可能性を感じました。またロシアの中で日本のことを好きだと思ってくれている親日家も多いことに気づきました。一方で、日本とロシアのビジネスをブリッジする人が少ないことも分かりました。そこでロシアにはビジネスチャンスがあると考え、大学・大学院共にロシア経済を勉強してきました。その後、京都大学のMBAに在籍中にRouteXを起業しました。もともと日露のビジネスを始めるために作った会社だったのですが、より視野を広げてアメリカや中東も行うようになりました。」

大森さんはロシアだけでなく、旧ソ連諸国にも詳しい。ウクライナ、ベラルーシ、アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギスなどで、広くリサーチを行い、旧ソ連地域にもスタートアップエコシステムの強みが様々あると話す。

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ロシアの第一印象は? どこが魅力?

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大森さん:「ロシアのことをよく知らない人にとっては、『怖い』イメージがあると思いますが、ロシアについて詳しくなればなるほど、優しい国だと感じますし、最新のテクノロジーがとても多いと感じています。例えば、モスクワの近くにスコルコヴォというロシア政府主導で作られているイノベーション都市がありますが、こちらではIoTシステム、セキュリティー、ロボット、ドローン関係の開発がとても進んでいます。日本は昔からハードウェアが得意と言われていましたが、実はロシアの方がそれ以上にハードウェアのスタートアップが広がってきています。これは日本人の知らないロシアの卓越しているところだと思います。」

スコルコヴォで最も記憶に残ったことは?

大森さん:「例えば、義手、つまり腕を失くしてしまった人にロボットアームをつけるというスタートアップがあり、ただロボットアームをつけるだけではなく、そこからスマホを操作できたり、普通の人以上の握力で重い物を持てたり、いわゆるトランスヒューマニズムと言われるような、『人とテクノロジーの合体』という部分において、ロシアではかなり先進的だと感じました。実際、そこのスタートアップの方とミーティングをさせてもらった際には、日本の一番大きい会社と話が進んでいると聞いています。」

(大森さんのスコルコヴォ訪問についてはこちらに詳しく書かれている。)

ロシアと日本のビジネス慣習の違い

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しかし、大森さんによると、ロシアと日本のビジネス慣習は大きく違っているという。まさにこれが原因となってお互いの理解に齟齬が生じ、協力が頓挫することが多いそうだ。

スプートニク:ビジネス慣習の違いにはどのようなものがある?

大森さん:「例えば、ビジネスを進めるに当たってのスケジュール感や契約書の中身など、いわゆる『クリアライン』の設定ですね。例えば、日本では99%以上の完成度がないと次に進められない場合が多いかと思います。一方、他の国はトライアンドエラーを素早く行うので、完璧でなくとも彼らの基準を満たしていれば次に進んでいくスタイルをとっています。日本と海外の間では、どうしてもこのギャップが大きすぎて、日本側が準備に時間をかけている間に断られてしまうパターンが多く、ロシアにおいても同じような状況になっている印象を受けます。このような問題が発生しないためにも、弊社がしっかりサポートしたいと思っています。」

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ロシアからどんなスタートアップが日本に進出している?
大森さんによると、残念ながら、まだこうしたスタートアップはかなり少ないという。

大森さん:「何故双方のスタートアップの進出があまり進んでいないかと言いますと、日本の企業でロシアのマーケットにアプローチしている会社は、ほとんどが大企業、特にエネルギー関係・自動車関係など資源を輸出入するような大きな会社です。またロシアで起業されている日本人の方もほとんどいない状況で、非常に少ないです。

日本で活躍されているロシアのスタートアップといえば、LikePay、あとは最近、弊社が支援させていただいている『SE-Japan』という日本語を学習するためのアプリをロシア語話者向けに作るようなスタートアップが出てきていますが、数えれる程しかいない状況です。なので、日露のスタートアップという意味では本当にまだまだこれからというのが現状です。」

「日本人の知らないロシアの魅力を伝えたい」 日露スタートアップの架け橋を目指す、RouteXの大森貴之さん
日露スタートアップイベント

日露初の大規模なスタートアップイベント「Japan-Russia Startup Online Conference(日露スタートアップ・オンライン・カンファレンス)」が昨年9月、在日ロシア大使館後援、RouteX Inc.、ロシア連邦国際文化科学協力庁、モスクワ大学サイエンスパーク、欧亜創生会議の共催で開催された。

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それ以降、オンラインの日露スタートアップイベントが少なくとも毎月1回は開催されている。

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大森さん:「ほぼ毎月、ロシアのスタートアップトレンド勉強会をオンラインで開催しており、ロシアの優れたスタートアップの技術やマーケットのトレンドなどを、日本のスタートアップや大企業の方にお伝えしています。毎回、とても大きな反響をいただき、『ロシアってこんなにすごいビジネスがあったんだ』とか『こんな風にマーケットが成長してるんだ』などとお声がけをいただいているので、今までロシアのスタートアップやマーケットのトレンドについて日本でお話しする人が少なかったことを改めて感じています。」

RouteXが支援しているのは日露のスタートアップイベントだけではない。3月に開催された、ロシア大使館/ロシア連邦文化協力庁主催による、ユーリイ・ガガーリン人類初宇宙飛行60周年記念写真展セレモニーもRouteXが支援した。

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欧亜創生会議を通して、日露のビジネス創出に貢献

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大森さんはRouteX代表としての主事業のほか、「一般社団法人 欧亜創生会議」の国際連携担当の副理事長でもある。この欧亜創生会議でも、大森さんは主にロシアを担当している。

大森さん:「欧亜創生会議にはRouteXとしても協賛企業として入っています。スタートアップだけでなく、日露のビジネス創出という点で主に支援させていただいています。これまでの日露の関わり方は、どちらかというと文化交流がメインでした。例えば、日本のアニメや茶道、或いはロシアの食べ物や、ダンス、オペラ、バレエなど。一方で、ビジネスの面においては交流が少ないことが顕著でした。そのため欧亜創生会議では日本人向けに「インスピリッツ」という雑誌を発行していて、まずはロシアのマーケットを知ってもらい、そこから興味を持たれた方にはご相談をお受けして、様々なサポートをさせていただいています。」

今後の計画について

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大森さん:「私自身、ロシアには毎年2、3回くらい渡航し、特にスコルコヴォ、モスクワ、サンクトペテルブルクを回って、スタートアップのリサーチをしていました。今後は、ロシアのスタートアップエコシステムの観点で見ると、ウラジオストク、カザンなどが盛り上がってきていますので、まずは周辺地域のリサーチを行い、RouteXと欧亜創生会議の双方でこの地域のマーケットトレンドをお伝えしていこうと思っています。」

このほか大森さんは、ロシアで事業を行う日本人に現地で支援を提供するため、近いうちにモスクワのオフィス開設も考えていると教えてくれた。

スタートアップを起こすには、何から始めればいい? スタートアップに入社するには?

スプートニク:残念ながら、日本人は大学でロシア語を勉強しても、大学を卒業後、ロシアとは関係のない仕事を選ぶことが少なくありません。その最大の理由が、起業の仕方が分からない、ロシア関連の仕事を見つける方法がわからないというものです。そうした人にアドバイスするとしたら?

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大森さん:「大学時代にロシアについて勉強して専門性を身に付けても、卒業して働く場所はロシアとは関係のない会社である人が多く、それまでのスキルやキャリアを活かせない事態が生じていることは、結果的に日露間でのビジネス創出から離れていってしまうと思います。そのために私たち自身はロシアに関わる人材のキャリアも作っていきたいと考えています。ロシアのスタートアップで日本進出を進めたいのに日本で働いてくれる日本人がなかなか見つからないという相談が実は多いのです。ロシアに関わりたい日本人と、日本進出をサポートして欲しいロシア企業とのマッチングがうまく行われていないので、まずは日本に進出しようとしているロシアのスタートアップを日本側にご紹介し、ロシアに興味がある日本企業とのマッチングをしていきたいと思っています。またこれに加えて、日本ではロシア関係を勉強した学生にとって、スタートアップ自体が就職先としてまだ人気ではないので、実はスタートアップには素晴らしいテクノロジーがあり、大企業に入るよりもロシアでのキャリア、ロシア語の専門性を活かしていける可能性がある事を伝えていくことが僕たちの役割だと思っています。」

スプートニク:それは、もともとロシアについて詳しい知識を持っていない人でもできることなのでしょうか?

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大森さん:「出来ると思います。よく日本人の方はアメリカやヨーロッパと何かビジネスをやってみたいと言っていますよね。なぜなら基本的には日本にある情報はほとんどがアメリカやヨーロッパのものなので、意識せずとも、海外の情報=アメリカやヨーロッパの情報になってしまっています。今後僕たちがしっかりロシアのビジネスチャンスやマーケットのトレンド、最先端テクノロジーの情報を伝えていければ、これからロシアにも興味を持ってくれる人も多くなると考えています。そしてロシアについて興味を持ってくれる人が多くなれば、選択肢としてロシア関係でビジネスをやってみようと思う会社も出てくると思います。なので、まずはそもそもロシアにビジネスチャンスがあることを伝えていく活動から始めなければいけないと思っています。」

スプートニク:最後にお聞きします。多くの人は、スタートアップはリスクが大きいと言って躊躇します。これについてどう思いますか?

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大森さん:「よく言われていることですが、「リスクを取らない」ことが一番リスクだと僕は思います。スタートアップにおけるリスクは、自分のキャリアを作っていく上で、自分自身が大きく成長する可能性もあれば、失敗する可能性もありますよね。それは自分がどう行動するかで大きく変わります。しかし大企業に入ると、会社自体は順調に伸びるかもしれませんが、自分自身が大きく成長出来る機会に触れる事が出来るのは限定的になってしまうかもしれません。あくまで「One of them」で、組織の中での最適なポジションに配置されるので、必ずしも自分のキャリアの希望には一致しない事の方が多い様に感じます。自分の決断や行動次第で成長の可能性を大きく広げる事が出来るスタートアップはキャリアの選択肢のひとつとして魅力的だと思っています。」


今回お話をお伺いし、RouteXや大森さんが日露のスタートアップ・エコシステム拡大に向け、様々な関係者と連携しながら直進している事が改めて分かった。日露の経済交流がさらに活性化していく未来に向けて、RouteXの今後の活躍が楽しみである。


今回取材した大森さんのプロフィール

海外渡航歴60カ国、学生時代にシリコンバレー、イスラエル、ロシア等でのインターンや調査を経験。海外のスタートアップ・エコシステムのリサーチを専門とし、世界中のスタートアップのビジネスモデルやテクノロジーの分析を行なっている。ロシアや旧ソ連地域が得意。シリコンバレーで毎年開催されるFacebookの最も重要なカンファレンス「F8」にて2019年度は日本人で唯一「F8 Hackathon」に参加。シリコンバレー発の世界最大のエンジニアとスタートアップのコミュニティFacebook Developer CirclesとAngelHackの日本運営代表を務めている。京都大学MBA (経営学修士) 修了

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